ミニストップに学ぶ「震災対応」と「商売」の両立とは?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年04月06日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ジャストインタイムだけが正解ではない?

Creative commons. Some rights reserved. Photo by Yuya Tamai

 「ミニストップ/店内調理のおにぎり・惣菜を200店舗に拡大」(ロジスティクス・パートナー社・流通ニュース/2010年09月15日)の記事によると、「2009年9月から、東京都内の既存店舗(約40店)において店内で調理した手作り『おにぎり』・『惣菜』の実験販売を行ってきた。今回、実験店の結果を受け、店舗オペレーションの効率化を図るとともに、販売の堅調な『おにぎり』と一部『惣菜』の取り扱い店舗を拡大することを決めた」とある。

 さらに2011年2月16日付日経MJの記事「ミニストップ、手作りおにぎり2000店で、13年度めど、ほぼ全店に拡大」によると、「店内で調理するおにぎりの販売を2013年度までにほぼ全店に広げる」予定で、「現在は『北海道焼鮭』『明太子』『高菜明太』など約10品目あり、中心価格は158円と通常より20〜30円程度高め。それでも『購入客の反応は非常によく、これまでコンビニで買い物をしてこなかった女性層の来店動機にもなっている』(阿部信行社長)」という。

 ミニストップは1980年にイオン(当時ジャスコ)によって設立。現在業界第5位、全国約2000店舗を有している。しかし、セブン-イレブンは1973年設立。前出のセイコーマートはさらに早く1971年に第1号店をオープンさせているのに比べると、業界後発である。

 後発ゆえに、何らかの差別化ポイントが必要で、そのためにオープン当初から準備されていたのが「店内調理の充実」である。ファストフードメニューを取りそろえ、店内で調理して、それを食べるためのイートインコーナーを備えているのが最大の特徴だ。店頭でソフトクリームを食べたことのある人も多いのではないか。

 店内調理は差別化できるだけでなく、収益貢献も高い。「商品仕入れ」→「在庫」→「販売」というコンビニエンスストアのバリューチェーンを、「原材料・半製品仕入れ」→「在庫」→「加工(調理)」→「販売」という、店内で加工度を上げる=付加価値を増す過程を持っているのだ。加工は店内スタッフが他業務と兼務する。人件費効率も高くなる。

 ミニストップの創業以来の差別化ポイントと、さらに2010年9月からの「手作りおにぎり」強化という下地があってこそ、今回の「震災品薄対応」が可能となっているのである。

 では、競合、例えば全国に約1万3000店舗を持つ業界第1位のセブン-イレブンが同様な施策を展開しようとすればできるのか。恐らく、それは「できない」だろう。そこが、ミニストップにとっては「震災対応」として社会・顧客に貢献しつつ、競合優位を築けているポイントなのだ。

 セブン-イレブンの力の源泉の1つは、「サプライチェーンマネジメント(SCM)」の精緻さだ。自社のバリューチェーンに他社のバリューチェーンをつなげば、業界に拡大したサプライチェーンを描くことができる。サプライチェーンの中で、自社のバリューチェーンをできるだけ軽くして、高効率な「ジャストインタイム」を実現してきたのがセブン-イレブンだ。ある意味、ミニストップとは正反対の姿である。セブン-イレブンでも店内調理は行っているが、ミニストップには一日の長、ノウハウの蓄積がある。

 ミニストップが被災地では品薄の牛乳を他社から仕入れたり、首都圏で食品工場が計画停電などで供給不足になっているおにぎりを手作りしたりと、素早い対応を行ったことは確かに社会的にもすばらしいことだ。しかし、そこには市場のニーズという外部環境を読み、競合と自社の強み・弱みを見極めて商機を見つけて展開しているという側面もある。

 震災復興は恐らく長期戦になるだろう。便乗や過度な儲け主義は厳に戒められるべきであるが、長きにわたる期間を善意や社会的意義だけで乗り切ることはできないのも事実だ。その意味では、ミニストップの今回の対応は1つのケーススタディーとして学ぶべきであろう。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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