人は仕事によって作られる――新社会人に贈る言葉(4/5 ページ)

» 2011年04月05日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

生き方・働き方は人からしか学べない――大きな生き方に触れよう

 突然ですが、1つ質問をします―――「あなたの尊敬する人は誰ですか?」。

 ……さて、みなさんは誰を挙げたでしょうか。日本人の場合、この質問に対する答えは決まっています。答えの第1位は、ダントツで「両親(父・母)」です。これは近年変わりがありません。ちなみに1位に遠く離された格好で、「先生」とか「兄弟」とか「イチロー」などが続きます。

 「なんだ、親子関係がギスギスしているような風潮で、安心できる結果じゃないか」と、一部の大人たちはうれしがっています。しかし、私はその逆です。多くの子ども・若者が判を押したように「尊敬する人は両親」と答えるのはあまり感心しませんし、その流れは変わった方がいいとさえ思っています。

 私は何も「親を尊敬するな」と言っているのではありません。もし、これが「あなたが一番感謝したい人は誰ですか?」―――「両親です」であるならば、これはもう諸手を挙げて感心したい。親というものは、尊敬の対象というより、感謝の対象の方がより自然な感じがするのは私だけでしょうか。

 少し厳しい言い方になりますが、今の日本の子どもや若者はあまりに多くの人を見ていませんし、多くの人の生き方に触れていません。ですから、「尊敬する人は?」という問いに対して、頭が回らず誰も彼もが「両親」と紋切りに答えてしまうのだろうと思います。

 私が大学生や若年社員向けの講義や研修で言うことは、「今一度、野口英世やヘレンケラーやガンジーなどの自伝や物語を読んでみなさい」です。もちろん、ここで言う野口英世やヘレンケラーなどは象徴的な人物を挙げているだけで、古今東西、第一級の人物、スケールの大きな生き方をした人間、その世界の開拓者・変革者なら誰でもいいわけです。そうした偉人たちについて、改めて読んでみると、そこには新しい発見、啓発、刺激、思索の素がたくさん詰まっているはずです。

 それら偉人たちの生き方・生き様に触れると、まず、自分の人生や思考がいかにちっぽけであるかに気が付きます。同時に、自分の恵まれた日常環境にありがたさの念が湧き、「こんな生ぬるい自分じゃいけないぞ」というエネルギーが起こってきます。そして、具体的に「ああ、こんな生き方をしてみたいな」という模範的存在(専門用語では「ロールモデル」と言います)が自分の中に立ち現われてきます。

 このロールモデルとの出会いが決定的に重要です。なぜなら、このロールモデルの生き方に刺激を受けて、その方向に行動を起こし、もがいていけば、だんだん道が見えてくるからです。そして同じような方向・同じような価値観で動いている人たちが周りに寄ってきて、彼らからもまた刺激を受けます。そうしてますます方向性と理想像がはっきりしてくる―――これが私の主張する「自分のやりたいこと・なりたいもの」が見えてくるプロセスです。

 もちろん、ロールモデルは身近な職場で見つかるかもしれません。「いや、うちの会社ではそのような人物が探せないよ」という場合でも、図書館に行けば、私たちは時空を超えてさまざまな人と出会うことができます。ですから、ぜひとも人との出会いには敏感に貪欲になってほしいと思います。ともかく、「何を、どう生きたか」というサンプルを多く見た人は、自分が「何を、どう生きるか」という発想が豊富に湧き、強い意志を持てるのです。

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