人は仕事によって作られる――新社会人に贈る言葉(3/5 ページ)

» 2011年04月05日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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登山型のキャリア・トレック型のキャリア

 みなさんは今、新しい生活を前に期待と希望に胸がふくらんでいることでしょう。しかし実際のところ、入社後半年や1年も経てば、多くの人が多忙な業務処理に追われて、自分の方向が見えなくなってしまうのが現実です。

 そして改めて持ち上がってくるのが、「この会社でいったい自分は何がやりたいのか?」「この職業を通して何を目指したいのか?」という自問です。この問いは難問です。事実、職場の先輩社員や上司もこの難問に対する自身の答えを持っている人は少ないのです(試しに周りの先輩方に聞いてみてください)。

 もちろん、もし、あなたに一心不乱に没頭できる職業上の目標が確固とあって、そこに邁進していけるのであれば、それはとても幸せな働き人です。どんどん突き進んでください。しかし、そういった明確な目標やら目的がすぐに見出せなくても、めげる必要はまったくありません。そこで登山とトレッキングの例を出してお話ししましょう。

 山の楽しみ方には、登山というスタイルとトレッキングというスタイルがあります。キャリアにもこの2つのスタイルがあります。登山の場合、目的はただ1つ「登頂」であり、その結果を得るためにあらゆる努力をしていく。頂を目指す途中、道草はしない。

 他方、トレッキングの場合は、登頂のように唯一究極の目的があらかじめあるわけではない。山の中を回遊して、何か自分のお気に入りの場所を探すというそのプロセスが楽しみになり、それが目的となる。途中でたまたま見つけた滝や池が気に入れば、しばらくそこにたたずんでその居心地を楽しめばよい。周辺に目をやると、やがて山の奥深い細かなものがいろいろ見えてくる。トレッキングを続けていくうちに、次第に山のことが分かってきて、体力や技術がついたとき、その山の頂上に登ってみようとか、向こうに見えるあの山を登山してみようとかになってもいいわけです。

 逆に、登山をしていた人が、頂上から下りてきて、今度は山腹にある池や川に留まって、そこで山の雰囲気を満喫するということもありです。

 つまり、「登山型」のキャリアとは、特定の山の“登頂”という最大の目的(=クライマックス・ゴール)を持ってそれを脇目も振らず目指すキャリアです。そして「トレッキング型」のキャリアは、山の中を地図を片手に、自分の関心のあるがままに回遊する。そうするうち、いつか気が付くと自分に適する目的場所(=フィッティング・ゴール)を見出す。そしてそこに留まり、その場所を通して山の魅力をさらに味わうというキャリアです。

 一般的に多くの人のキャリアの流れは、まず、トレッキングで山の楽しみを得て、そのうち、登りたい山がみえてきて、登山に挑戦するといった順序でしょう。もちろん、生涯、トレッキングのみで終える人もいます。その一方、若いうちにすでに目指したい山があって、いきなり登山を志す人もいるでしょう。それは人それぞれでいいと思います。

 いずれにせよ山は「働くこと」の比喩です。山はその頂上にしても、そのすそ野の森にしても、実に懐の深い喜びや楽しみや甲斐を内包しているものです。それらをいかにうまく発掘できるか、それは各人の好奇心と行動力次第といえるでしょう。

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