東電の振る舞い、いかがなものか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年04月04日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 先がいっこうに見えてこない東京電力の福島第1原発事故。3月30日になってようやく勝俣恒久会長が記者会見を開いた。入院した清水正孝社長は記者会見を一度開いただけで、トップによる記者会見は事故から20日近くたって2度目である。

 会見で語った内容は、ほぼ予想されたものだと思う。しかし原発史上最悪ともいえる事故を起こした企業のトップとして、メディアの前に顔を出すのは遅過ぎたのではないだろうか。大手石油会社BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)がメキシコ湾で油田火災を起こしたとき、トップはずいぶん早い段階から何度も記者会見をしていたように記憶する。

立ったままの謝罪

東京電力の勝俣恒久会長

 事故当初から東電の広報姿勢に疑問を呈する声が強かった。説明があいまいで「健康に直ちに影響はない」というような言い方が目立ったからだ。データを示せば(例えば放射線量が通常値の100倍など)と言えばパニックになると思ったのだろうが、あいまいにすればするほど「隠している」と思われることに気がつかなかったのだろうか。海外メディアがかなりパニックになった背景には、東電や原子力安全・保安院の会見が、あまりに漠然としていたことがあると思う。

 会見場にテレビカメラが入ってそれをライブで一般国民が見ているというのに、国民に向かって(少なくとも東電管区の顧客や株主に向かって)説明するという姿勢はほとんど見えない。広報部の会見が中継されるというようなことは今まで経験したことがないことだから、そこは同情の余地がある。しかし何度か繰り返せば、どこに国民が不満や不安を感じているのか、フィードバックがあるはず。そこで軌道修正することがなぜできなかったのかが不思議でならない。

 清水社長が福島県知事のところに謝罪に行こうとして断られたのはちょっとみっともなかったが、もっと問題なのは、鼓紀男副社長が避難している住民に謝罪に行ったときである。体育館のようなところに訪れた副社長は、確かにおわびの言葉を語り、何人かの住民に直接頭を下げた。針のむしろに座っているような気分だっただろうと想像するが、彼は立ったままお辞儀をしたのである。3月30日、天皇皇后両陛下が足立区の東京武道館に避難している人々を訪問した。陛下は膝をついて人々に語りかけ、励ました。

 床に座るような状況に追い込まれている人々に対して、両陛下が心からの共感を示したように見えるのに対し、立ったまま上から「謝罪」した東電副社長は視聴者からどのように見られただろうか(ちなみに皇居では自主停電を実行し、那須の御用邸では職員用の風呂を避難している人々に開放している。東電にも立派な保養所があると思うが、そうした施設を避難所に開放したという話は聞こえてこない)。

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