川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ」
企業がITに最も期待したことは、「業務の効率化」でありました。さまざまな仕事が、少人数で、短時間で、間違いなく進んでいくものと想像しました。今でも、恐らくそう期待している会社は多いでしょうし、システムを販売する会社がウリにするのもそれが中心です。
ところが現実は、早く終わって帰れるわけでもないし、何でもスピーディーに片付くようになった感じもせず、逆に忙しくなった気がすると言う人が多いのが実際です。すっかりPCとインターネットとさまざまなソフトが普及し、これからもそれなしには仕事ができない状況は変わりませんが、IT化するとどのようなことが起こるのか、そのデメリットや問題点を冷静に考えておくことは大切なことであると思います。
なぜ期待通りの「業務の効率化」が進まず、余計に忙しくなってしまったのか。まずは、「情報収集をしすぎてしまう」ことがあります。検索すれば、関連情報を際限なく収集できますし、社内外からデータや事例などを送ってもらうこともメールを使えば容易です。
“たくさんの情報があれば、必ず正確な判断が可能になる”という前提でモノを考える人も多いので、とにかく調べる。どんどん検索する。「これ以上の情報収集は無理だ」と判断できた昔に比べれば、インターネットを使って情報収集をしている時間はまさに激増したと言ってよいでしょう。
そうすると、「資料の量が増える」。「自分の意見や提案が正しいことは、これだけたくさんの情報によって証明されていますよ」「これだけデータを集めた努力も含めてお願いしますよ」と言わんばかりの資料の多さ。見る気が起こらないほどの、それも老眼には厳しいような小さい文字で、詳細なデータをビッシリ添付されても困るし、よく聞いてみたらそれは2〜3枚にまとめられるだろうと感じるけれども、本人はどうだと言わんばかり。検索して集めたデータをコピペした程度の、頭も手間も大して使っていない簡単な資料がどんどん添付されていきます。IT化によって紙の量が減ると考えられた時期もありましたが、逆に増えたのではなかろうかと想像します。
また、「できばえにこだわってしまう」人が増えました。文字を変えることができるし、線も引ける、デザインもできるわ、画像も貼れる、と見栄えをよくしようとすれば、これも際限なく可能です。それでもう十分な出来なのに、いつまでもこだわってソフトの機能を探したり、試したり、人に聞いたりしている人が非常に多くなりました。
もちろん細部にまでこだわるのは良いことでありますが、ソフトに用意されたさまざまな機能に目を奪われ、踊らされて、仕事の目的とは関係のないできばえや、効果の薄いこだわりに多くの時間が割かれてしまっているのだとすると、効率化の観点からは問題です。
ほかには、メールやイントラネットの情報共有機能(掲示板やSNS)によって、「関係者が増加し、反応に手間がかかる」ようになりました。いわゆる報連相がそれらで簡単にできるようになったので、ちょっとしたことでもとにかくモレがないように、多くの人に知らせておこうといった行動が増えます。
そうしますと、さまざまな立場の人がGOODからNGまでさまざまな反応を寄せてきます。それらを無視するわけにはいかないので、反応を返さねばなりませんし、さらに調整したり、まとめたりといった作業があればこれは大変です。情報共有や意見交換は大切なことですが、少ない関係者でササッとやっていた時代にはなかった、多くの人との間で発生しているやりとりは物事を進める際の効率を低下させることになります(関わる人が多くなって結果も良くなったのであれば、いいのですが……)。
「提案書はパワーポイントで」というのも、効率を低下させている勘違いです。営業用資料や提案書は、すっかりパワーポイントで作るものだということになっていますが、構成や文言や見た目など、似たようなものだらけ。
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