原発事故はいつ収束するのか?――東京電力・勝俣恒久会長が事故後初の会見(9/9 ページ)

» 2011年03月31日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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今後の日本の原発政策の行方は

――(日経新聞)今回の事故によって国内のプルサーマル計画は頓挫する恐れがあります。また同時に六カ所村(青森県)の再処理工場もトラブル続きで運転できていませんが、核燃料サイクル路線※はこれからどうなるとお考えですか。

※核燃料サイクル路線……使用済み核燃料を再処理してプルトニウムとウランを抽出し、そのプルトニウムと濃縮度を調整したウランを混合し焼結した混合酸化物燃料を高速増殖炉などで燃焼し、さらにそこからプルトニウムとウランを抽出して利用するもの。

勝俣 私から申しあげるというより、国全体の政策の話だと思います。ただ言えることは、恐らくプルサーマル計画、六カ所村の再処理工場の処理が開始されることも、恐らく今回のことも踏まえて遅れていく。その中で種々議論されるのであろうかと思います。

――(日経新聞)抽象的になりますが、原発がまた日本で再生するためには何が必要でしょうか。例えば、原発の部分だけ民間の電力会社から切り離して国有化するといったことまで必要なのでしょうか。

勝俣 大変申しわけありませんが、今、私は国ベースの(原発の)再生ということも含めて、そこまで頭が及んでいないので、今後の大きな課題として受け止めさせていただきます。

――(ロイター通信)原発のプラントの輸出は、鉄道システムなどと並ぶ国の社会インフラ輸出の柱になるはずだったと思うのですが、今回のことでどういう影響が出そうですか。

勝俣 今まで海外で原子力ルネサンス(参照リンク)ということで計画していたものが、恐らくかなり縮小していくだろうと思います。日本としてどうするかについて1つ象徴的なのはベトナムです。今後どうなるかは、私に見通せる段階にはありません。

――(ロイター通信)今回影響を受けられた方への補償を最大限にということですが、範囲についてはどうお考えですか。住むところが変わった、漁業ができなくなった、農業が被害を受けたという明らかな方は別として、東京で普段買わない水を買っている人たち、春休みは東京にいるはずだったのに海外に出てしまったという人もいらっしゃいます。どういったところまで補償していくのでしょうか。

勝俣 先ほどから申しているように、原子力損害賠償法がどういう風に適用されるかを、よく政府と協議しながら、どういう格好になるのか決まってくると考えています。

――(日経新聞)今日、菅総理が「エネルギー政策の見直しも必要だろう」という認識を示したという報道がありました。今までの原発中心の戦略見直しはやむを得ないでしょうか。

勝俣 原発をどう位置付けるかは大変難しい。今の時点で申し上げるのは大変難しい。「環境の問題、安定供給性の問題、効率性の問題をどう理解して、自然エネルギーに変換することができるのか」「火力に頼っているとどういうことになるのか」などを含めて、さりとて今回のようなことは大変問題なので、そこをどうしていくかはしっかり議論される必要があろうかと思います。

――(日経新聞)勝俣会長は、社長在任中から「3つのE」とよく言っていました。「環境性(Environment)と供給安定性(Energy)、経済性(Economy)の意味で原子力を推進していくことは必要」と言っていましたが、これは現在もそう思っていますか。

勝俣 「3つのE」自体は、資源が乏しいわが国において、この3つは基本的にうまくバランスがとれる指標として、私は必要だと考えています。

――(日経新聞)勝俣会長は社長→会長としてトップに長くいますが、その間、こういう事故が起こらないために、こういうことをやっておけばよかったと反省や後悔する点はありますか。

勝俣 これは本当に私たちの反省材料というか、申しわけないことで、今後、事故調査委員会などを通じて、「どこに問題があったのか」「どういうことでやったのか」をしっかりと詰めて、今後の対策に生かしていきたいと思います。

――(NPJ)今回の事故については、すでに多額の税金が投入されていますし、他方で多くの国民が「自分たちにできることがあれば、何とかしてこの危機を乗り越えていきたい」と考えていると思います。どのような問題があって、どのようなことを改善していかなければいけないのかを国民が共有して事に当たる必要があると思いますが、日々更新される工程表を、細かい部分は別として、概要を国民に発表される予定はありますか。

勝俣 こういったことを出していきたいと思います。ただ、今のところ、確定している手段やスケジュールが非常に不透明なところがあるので、できるだけ早く国民のみなさま、そして避難しているみなさまへの見通しに寄与するようなものができれば大変幸せと思っています。しかし、誠に申しわけないのですが、今の段階でそれがいつといったことを申し上げる段階には来ていないということです。

――(NPJ)分からないと言うことも重要な情報になるので、現時点でおおまかにこういうことが見取り図としてできているんだとできるだけ早く提示することが、国民に安心感を与えると考えるのですが、「これは公開してはいけない」と政府から言われているのですか?

勝俣 いえ、そんなことはありません。先ほどから私が申し上げている諸課題がいつ克服されるかが大変不透明になっているので、まだ国民のみなさま、地元のみなさまにご説明できるような段階にはなっていません。

――(NPJ)何が分かる分からないだけでもいいわけです。あるいは「こういう課題があるので」というだけでもいいんです。何が課題かすら、私たちには分からない。何を東電が問題として抱えているかも分からないわけです。本当に不安をつのらせるばかりです

勝俣 先ほどから申し上げていますように、まずは原子炉を冷温状態にするということですが、今、建屋の地下に高放射線量の排水が入ってきているので、そこが1つのネックになっています。あるいはそれによって、パワーセンターやポンプなどが水に浸かっています。ここを何とか別の方法でもいいのでクリアすることを早くしなければいけない、ということが第1。

 第2は原子炉の中に煮沸されてできた塩がたくさん入っています。その塩はある意味腐食を早める、配管も弱めるので、それをどうやって除去するかといった問題。それから今、格納容器からか建屋からかプールからかよく分かりませんが、出ている放射線をどうやって少なくして、それを吸入するか、外に出さないようにしていくか、といった問題。それから最終的に、途中の段階でもいいのですが、遮蔽といったことを考えます。

 一方、地域における影響評価というものを蓄積しながら、「どういう状況にあるか」ということをみなさんにも知らしつつ、これは私どもが徹底するというよりは、政府の決定事項ということですが、帰れる帰れないも含めてやっていければ一番幸いなんです。そこに今言ったような問題をいつどのような方法でクリアしていくかが非常に難しい。

 もう1つ、原子炉の中、あるいは燃料プールの中に入っている燃料棒をどうやって取り出すか、これも1つ残っていると思います。そうしたことにそれぞれ取り掛かっています。これはいろんな学者さん、あるいは政府、米国、フランスなどとも含めて、どうすべきかということをいろいろ検討しているところです。しかし、「いつまでにこの方法でいこう」というところまで、なかなか結論が出ていないという状況です。

――(NHK)「核燃料サイクル関係は、今回のことを踏まえて遅れていく」という発言がありましたが、これは今回のどのような点をとらえて遅れていくとおっしゃっているのでしょうか。

勝俣 プルサーマルについて、かなりご理解、ご了解をいただいた地点に発電所もあるわけですが、まだ(説明の余地が)残っている地点もあります。それを踏まえると、「そうしたところで、また新たな説明をした時にご理解をいただけるか」という難しい課題が一方であります。

 それから、六ヶ所村の再処理工場も今回の事故を受けて、青森県としてとりあえず、停止と申しますか、中止と申しますか、そうした方向で動いていますので、こうした点を考えると、物理的に遅れるのではないかと思います。そうしたことを踏まえてですが、核燃料サイクルをどういう風にしていくかというのは原子力委員会が今開催している、原子力政策大綱の委員会で今後議論されていくことではないかと考えています。

武藤 日本原燃についてですが、六カ所村(の使用済み核燃料の再処理)については現在、中断しているということでなく、ガラス溶融炉の問題などがあって工程が遅れて、全体としては遅れているという認識がありますが、今回の津波による事故も踏まえて緊急点検の指示が出ています。この指示の中身について、きちんと対応をとって作業を必要に応じて行っていくことで、見極めていきたいです。

勝俣 すみません。私が勘違いしており、申しわけございませんでした。

――(レスポンス)今後の電気料金の値上げの予定を教えてください。

勝俣 正直、スケジュールはありません。というのは、どういう費用がどういう風になっていくかという、原子力がらみのことが今のところ不透明であること、原子力賠償責任法の状況も不透明であることなどをふまえて、今、「いつから値上げだ」とかそういうことは今のところ考えていません。

――(レスポンス)ただ、値上げは不可避なわけですよね。

勝俣 これも今後どういう風にしていくかというのをよく詰めて考えていきたいと思います。

――(レスポンス)値上げはしないと今、断言はできないですか。

勝俣 これはなかなか難しいところです。これからどういう費用がどういう風に発生するか、それが自力で吸収できるものであるか、そこにかかってくるということになろうかと思います。

――(ブルームバーグ)東電が米国で進めている原子力発電所の開発計画(サウステキサスプロジェクト、参照リンク)は今後もそのまま継続するのでしょうか。

勝俣 おそらく先方の米国でも何といいましょうか、これを推進するのか継続するかというのは疑念がありますし、私たちとしてもこれから資金的に難しくなる中で、継続は難しいと思っています。

――(ブルームバーグ)「今回の事故で欧米や新興国での原発開発の議論が後戻りするのではないか」という議論が出ていますが、今回の事故の当事者として、そういった諸外国の原発開発計画に携わる人へのメッセージをお願いします。

勝俣 今回の問題は国内の原発事業者にいろいろ大変なご心配、ご迷惑をかけましたが、欧米や新興国にも大変影響が大きかった問題だったと自覚しています。従って、こうした点で申しわけなかったということと、これがどういう風になって生じたかは、今後、世界原子力発電事業者協会(WANO)、あるいは国際原子力機関(IAEA)を通じて明らかにしていきたいと考えています。

――(報知新聞)作業員が被ばくしたり、結果的に放射能汚染はなかったとはいえ、水をかぶられた作業員がいました。さらに排気塔で事故直後の放射性物質量が測れないなど、原子炉に対する安全設計に比べて、事故時にどういった影響が広がり、被ばくというのがどういう状況で起こるのかということへの備えがあまりにも薄かったように思えます。人が被ばくをすることへの想像力が、電力会社の中で欠けていたのではないでしょうか。

勝俣 今回は非常に悪コンディションの中で、輻輳(ふくそう)する作業がありました。そうした中で3人の被ばくが生じましたし、発表ミスもありました。こうしたことは大変な反省事項で、統合対策本部の会議でもいろいろな議論がありました。今後、こうしたことを踏まえつつ、確かにいろいろ難しいことはありますが、私たち東電の指示、あるいはこういう条件の下で仕事するんだということをもっともっと明確にすることを始め、指揮、方策を講ずることとしています。そうしたことで、ご指摘のようなお話を謙虚に受け止め、今後の反省材料にしたいと思います。

――(報知新聞)プルトニウムの検出の遅れが指摘されましたが、もともと設定していた防災事業計画、またはアクシデントマネジメント、または事故操作手順書の中に、「有事の際にプルトニウムを検出する」という項目はそもそも設定されていたのでしょうか。

武藤 こういった緊急時のプルトニウムの測定ですが、プルトニウムの測定というのは、先ほど申し上げた通り、時間がかかるので、速報性という観点からすると、特に事故が進展していく当初は「プルトニウムを測りながら何かを判断する」というより、「すぐに測れるガンマ線、あるいはベータ線を測って、判断していく方が実際的だ」と思いました。プルトニウムについては燃料棒が損傷して、大変厳しい条件になって初めて、放出の可能性が考えられるので、ガンマ線やベータ線をしっかりと測定して、その中でアルファ線を発するプルトニウムの測定をどこで行うかということを判断したということです。

――(ニコニコ動画)今回の原発の件で菅総理と最近いつ話しましたか。また、どのような話をしましたか。

勝俣 菅総理からは時々電話をいただきます。例えば、海水を今注入しているのですが、「これを早く淡水に切り替えたらどうか」とか、その時に「ダムの水面はどうなっているのか」といったことが確か、ちょっと定かではないですが一番最近の電話だったかと思います。

 菅総理のスタッフも統合対策本部にいるので、そうした方を通じて、間接的に総理に話せるような仕組みになっています。

――(ニコニコ動画)原発の状況や問題点が明らかになっていく中、現地でのオペレーションに当たって、海外からのロボットの投入など、いろいろな動きをされていると思うのですが、最終的な事態の収束は人による作業でしか終了しないという認識で正しいでしょうか。

勝俣 ここは非常に難しいところです。言ってみれば、人が高放射線量の中に入って作業できれば一番話が早いですが、できませんので。例えば、米国からも「ロボットを提供できるよ」という話もあるので、そうしたことを最大限活用しながら、また、人が高放射線量の中に入らないで、どんな工夫ができるのかということで、日々何通りかの方法を実際にやってみるとか、そんなことでやっているので、ちょっと時間がかかるということです

――(ニコニコ動画)状況によっては最終的には人がやらないといけないという場合もあるということですか?

勝俣 人がどういうところでやるかということ次第ですね

――(ニコニコ動画)作業としては人によってしか収束しないという認識でいいですか。環境状況はともかく

武藤 人間が当然、接近できるところは人間がやる部分もあるでしょうし、そこが難しいところについてはロボット技術も使っていくということで、それはこれからどういう仕事をどのように組み立てるかという中で一番良い形を考えていくことだと思っています。

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