宋文洲が語る、東電の原発事故とダメな会社の共通点(2/3 ページ)

» 2011年03月30日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

組織的な問題が潜んでいる

 福島第1原発事故が発生し、米国は「原発の80キロ圏外への避難」を指示した。ところが、日本政府は30キロ。この50キロの差をどうとらえればいいのだろうか。自民党のある政治家はこう言っていた。「なぜ日本政府は30キロ圏外への避難を設定するときに、米国政府と相談しなかったのか。せめて米国と同じ指示を出すべきだった」と。

 福島第1原発の事故は、日本だけの事故ではない。これは世界の事故だ。「日本の技術力が劣っているから、原発事故が起きた」などと批判する人がいるが、今は事故の処理を優先すべき。その処理がうまくいくかどうかは、リーダーシップの問題でもある。

 原発事故は月日が経てば、どういったところに問題があったのかなどを検証するはず。そして「事故が起きたとき、リーダーは何をしていたのか」といった点が問題になるだろう。

 これほど重大な問題が起きれば、現場の人間が判断できるはずがない。マニュアルに書いていないことは実行できるはずがない。もし書いていても、実行できなかったのではないだろうか。原子炉を冷却するために一刻も早く海水を入れなければいけないのに、海水を入れると原子炉が使えなくなる。そこで迷いが生じ、チャンスを逃してしまう。

 言葉が悪いかもしれないが、東京電力は“損切り”ができなかった。「仕方がない。海水をかけよう」という事態になっても、行動することができなかった。「海水をかけなければいけない」ことを認めてしまうと、自分の責任になってしまうので、判断が遅れてしまったのだ。

 ダメな会社には共通する点がある。業績が悪い事業から撤退できない。もうからない案件から撤退できない。何か新しいことを始めるのは必死になるが、何をやめればいいのかが分からない。要するに、やめる勇気がないのだ。また何らかの問題が生じれば「後任の人に任せたい」と考えるリーダーが多く、そういう人は「自分が間違っていた」という事実を認めようとしない。

 福島第1原発3号機の中で作業をしていた3人が被ばくした。水たまりの中の放射性物質の濃度は通常に比べ1万倍ほどに達していたので、警告を知らせるアラームが鳴っていた。しかし3人は故障と思い、作業を続けた。マニュアルには「放射線量を測りながら作業をしなければいけない」と書いてあるのに、彼らは「測るのを忘れた」などと答えていた。しかしもしかすると、放射線量を測り、その数値を報告すれば誰も現場に行かなくなるかもしれない。なので測っても、そのことを上司に言わなかったのではないだろうか。もしそうであれば、ここにも組織的な問題が潜んでいると言える。

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