渋谷にB級グルメ村! 「ギン酒場」の戦略を読み解くそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年03月30日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2       

目指すのは飲食業のルミネか?

Creative commons.Some rights reserved.Photo by june29

 「シャワー効果」とは百貨店などが上階の魅力を高め、来店客を下の階へ誘導し購買機会を高める手法だ。最上階に飲食店街を作ったり、催事会場を上階に設定したりするのはそのためだ。

 「ギン酒場」の場合は「宴会場」が4階、つまり厨房を除いた実質的な最上階にあるのがポイントだ。宴会の参加者は主体的に来店するのではなく、幹事によって店舗に集められる。幹事も自ら足で店を探すのではなく、ネットの検索で見つけたり、クーポンに釣られて主客されたりする場合も多い。そんな客が4階にたどり着くまでに、1〜3階の店舗の雰囲気を認知しながら宴会場におもむくわけだ。当日は宴会で腹一杯飲み食いしてしまうだろうが、後日の再来店が期待できる。「シャワー効果」の変形パターンといえるだろう。

 「ポートフォリオマネジメント(PPM)」とは、複数の事業を行ったり製品を生産・販売したりしている企業が、製品・事業相互の組み合わせや存続を検討するためのフレームワークである。市場占有率(シェア)を横軸に、成長性を縦軸に1つの象限を作る。右上は、導入期にあり市場占有率が低く成長性が高い事業・商品である「問題児」。左上は、成長期にあり市場占有率が高く、成長性も高い「花形」。左下は市場占有率が高く、成熟期にあり成長性が低い「金のなる木」。右下は衰退期にあり市場占有率も成長性も低い「負け犬」だ。

 PPMには大原則がある。それは、「花形」不在にならないようにすること。そのためには、積極的に「問題児」を見つけ、育てることだ。2つ目の大原則は「金のなる木」から得た収益を、「問題児」に積極的に投資することである。

 「ギン酒場」渋谷店で考えれば、4階の「宴会場」は固い収益が望める「金のなる木」。強い支持基盤を持つ「焼酎」を中心とした3階も同じく「金のなる木」と言えるだろう。ともに上階に置き、階上まで客を吸引する力がある。1階は路面から入りやすいという利点も生かし、「金のなる木」として人気の「ハイボール」を中心とした店舗を配置。そして、4・3階からのシャワー効果での再来店でトライアルさせる「マッコリ」の店をこれから伸ばすべき「問題児」を2階に配置したという構図だ。

 「ルミネ」などのテナントビルと異なり「ギン酒場」が優位な点は、ホットランド1棟借りによる自社店舗である点だ。PPMで管理して、成長性を見てフロア間で店舗を入れ替えてもよし。十分に「花形」として育ったら、ビル外に新橋のようなトレーラー店舗や銀座店のような立ち飲み店として切り出すことも可能だ。

 外食産業自体が低価格・低収益の波にさらされ、居酒屋業界は特に「280円均一価格」などの「利益なき繁忙」に陥る構図になっている。厳しい業界の生き残り手法として、流通業とも共通する「館づくり」と、成長性と存続性を考えて事業・商品を評価・管理する手法は他業界でも参考になるだろう。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


関連キーワード

マーケティング


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.