作品内容が変わることはない――宮崎駿氏らが語る、大震災と新作『コクリコ坂から』(6/6 ページ)

» 2011年03月28日 22時05分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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計画停電の影響は大きい

――計画停電の影響が出ているという話がありましたが、どのような状況なのでしょうか。

鈴木 今回の地震は被災地の人のことを考えると、(ジブリへの影響は)大したことはないでしょう。ところが、ご承知のように、東京でも計画停電が行われることになりました。

 アニメーションの部分、キャラクターを動く絵や背景を描くことは手作業でできます。ところが現在のアニメーション映画では、描いた絵をコンピュータで取り込んで、モニタ上で作業するということがあるわけです。そうすると、どうしてもコンピュータのお世話にならないといけない。つまり電気の問題が出てくるわけです。

 これは随分、討議を重ねました。何しろ計画停電は、(基本的に)昼間に起こりますからね。ある日、ちょっと実験してみたら、まず電気を止めるのに1時間かかる、そして復旧するのに2時間かかるんです。そうすると3時間の停電でも都合6時間(のロスが出る)。

 しかも、リスクが伴います。どういうことかというと、作った映像をサーバーの中に入れておくわけですが、その電気を消したり、復旧したりする過程で吹っ飛ぶ可能性があるわけです。だから、本当に悩みに悩みました。

 僕らが決めたことは、コンピュータのセクションの人は本当に申しわけないのですが、昼間にそういう不安定な状況で仕事をするよりも、夜やってもらおうと。ジブリは通常、10時から働くことになっているのですが、コンピュータ関係の人は20時出社、そしてある時間まで働いていただく、ということを現状やっています。ただまあ、「今のところは」なんですけどね。

 理由は分からないですが、今のところ、ジブリでは計画停電が起きていないんです。これからの予定としてもしばらくの間、起きないというので、夜にやっていたやつを、ちょうど今日からなのですが、昼間に戻そうかということをやっている最中です。

 全体の進行としては、予告編をいつもだと12月に出すのですが、(今日出したということで)確かに遅れてます。これは先ほど宮崎駿が申していましたが、シナリオが遅れた上に、実は絵コンテの作業もかなり遅れていて、これも何とかしないといけなかったんです。そのしわよせが来ているところに、今の計画停電の問題が起きているので、非常に厳しい局面に立たされています。

 先ほど宮崎(駿)が「自分の次回作の問題もある」と言いましたが、あれはまだ準備の段階です。主要なスタッフを分けていたのですが、次の作品に関わろうとしていた人も急遽、今、『コクリコ坂から』の方に投入して、現状やっています。まあ、宮崎(駿の次回作)のは随分先になりますから。そんなに先のことを言ってられないんですよ。

 とにかく僕らがこの地震に関して言うと、「映画を公開日にちゃんと公開をする」と。これが多分、僕らができる一番のこと、そんなことをちょっと考えたので、「とにかく映画を公開日(7月16日)に間に合うようにやることが僕らの責務なのかな」と思っています。

――愛知のトヨタ自動車本社内にある西ジブリ(参照記事)を活用させる意見はありましたか。

鈴木 あれはもうこちらに全員戻ってきているんですよ。戻ってきて、その人たちももちろん今、仕事をやっています。

――現在の全体の進捗状況はどのくらいですか?

鈴木 これは簡単には言えません。要点だけ申しますと、アニメーション部分の絵は9割方できてきています。これをチェックしないといけないんですけど。背景(美術)も少し遅れています。それでそれをコンピュータで色を塗って、撮影するというものも残っているのですが、全体で言うと5割ですかね。本当はこの段階では70%くらい欲しいのですが、それをどうやって詰めるかです。何とかやります。「お客さんのニーズに応えたい」と思っています。

――地震は制作状況にどのくらい影響を与えたのでしょうか。

鈴木 現実問題として、夜の作業というのはやっぱり、あまり順調にいかないんです。だから、その影響は実は大きいです。大きいですが、「何とか頑張ろう」と。物理的にも人を増やしています。ジブリの1スタジオのバーという、みんながご飯を食べるところにもコンピュータを新たに設置して、挽回すべく現在やっています。

――確認になりますが、作品の内容その他に関して、今回の震災を受けて一部変更が加えられたとかありますか?

鈴木 一切なしです。一切ありません。そんなことできないんですよ。今、そんなことをやっていたら公開できませんから。これは先ほど宮崎が言っていましたが、準備の段階で絵を描き始めたのは2010年1月からなんですよ。要するにキャラクターの絵を描くとか、背景をどうするかとか、設定をどうするかというのは、1年以上前の話になるので。それを今さらいじるとか、そんなことは絶対できません。

――宮崎駿さんが少し言いかけていましたが、震災の支援策としてどんなことを考えていらっしゃいますか?

鈴木 「震災に関してジブリがどうしていくのか」という問題に関しては、現状、実はさまざまなことをやっています。ある団体の協力も得ながらやっているのですが、これはみんなで相談をしたのですが、それをあえて発表するのか、発表しないのかという問題があるような気がするんです。

 それでいろんな方が震災に関しての支援について、非常に具体的にいろいろお話をされているのですが、僕としては「あえてそれを言うということが何なのか」ということを社内でいろいろ話し合って公表はやめました。ただ、精神面でなくて、物理面でもいろんな支援をしようということで、現状やっています。

――だいたいどんな支援かということを教えていただけますか。

鈴木 それを言ってしまうと、喋っちゃうことになりますからね(笑)。まあ、いろいろありますよ。これは本当に申しわけないのですが、それを言うと、そのことが一人歩きしちゃうでしょ。僕はどこかでつらいんですよね。

 だから、「お金だけではなくて、人の支援もしようかな」とかいろんなことを今考えていて、やっている最中です。僕はラジオをやっているのですが、ちょうど昨日、ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞君にゲストで出てもらったんです。大西君は地震の翌々日には(宮城県の)気仙沼に現れた人なので、現状いろんなことを把握しているので、彼なんかの意見を聞きながらやれることをやろうという風にやっています

――スタッフの家族の方で被災された方がいらっしゃるという話もありましたが。

鈴木 今、スタジオジブリは美術館を含めて約300人のスタッフがいます。該当する地域の方にどういう人がいるか、家族がどうなっているか、をすぐ確認しました。確かに家の瓦が全部飛んでしまったといったことはあったのですが、今のところ大きな被害はありませんでした。

――例えば映画が完成した後に(被災地で)上映されたりといったことはお考えですか。

鈴木 「出来上がった映画を持っていくというのもあるのか」とか、そういうことは(配給会社の)東宝と検討中ですね。映画のキャンペーンということで、北は北海道から、南は沖縄まで日本全国をぐるぐる回ろうと思っていたのですが、ちょうど今、そのことについても相談をしている段階です。

――今、広告の自粛などがあって、プロモーションが非常に難しい状況にあると思うのですが、宣伝計画に変更はありますか?

鈴木 それはないです。主題歌は予告編などで出していくので、その発表だけはちゃんとやらないといけないと思っていました。

 ただ、僕は映画の宣伝はあまり早くからいろいろやってもしょうがないと思っているんです。これは宣伝プロデューサーとも意見が分かれるところで、いろいろもめているのですが、僕は実は「映画公開の2週間くらい前でいいか」と思っているんです。だから、直接、そういう問題はありません。

 ただ、僕はこの地震に関して、「夏になれば何とかなるんじゃないか」というのは甘い見通しだと思っているんです。どういうことかというと、これも僕は正確なところをつかんでいないのですが、日本では今、いろんな映画館でいろんな自粛をしていて、それから実際に被害にあった方もいらっしゃって、実際に映画を公開できないということがあります。ほとんどが今、シネコンなのですが、8スクリーン中3〜4スクリーンでしかやっていないとか、18時までで打ち切るとか、いろんなことが出てきています。僕は夏の計画停電がそのほかにも大きな影響を与えると思っています。これはまだ宣伝プロデューサーに話していなかったのですが、その中でどうするかは非常に大事な問題だと思っています。

――被災地の方にメッセージを。

鈴木 言葉というのは難しいですね、こういう時。そうですね、突然、ジブリのいろんなものが(被災地に)現れるかもしれないですが、僕らとしては陰日なたになって全部やれることはやろうと思っている。そういうことですかね

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