作品内容が変わることはない――宮崎駿氏らが語る、大震災と新作『コクリコ坂から』(5/6 ページ)

» 2011年03月28日 22時05分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

上を見れば何かいいことが起こるんじゃないかな

 宮崎駿氏らの会見後には、鈴木敏夫プロデューサーが登場。計画停電などによって、スケジュールがかつてないほど遅れている状況について説明した。

――「上を向いて歩こう」というキャッチコピーを鈴木さんが考えられたということですが、その意図を教えてください。

鈴木敏夫 先ほど吾郎君が説明してましたが、時代を表す歌として坂本九さんの『見上げてごらん夜の星を』を最初、彼は考えていたんです。ただ、僕は実は個人的に坂本さんの大ファンだったので、坂本さんといったらやっぱり『上を向いて歩こう』だろうと。

 『コクリコ坂から』の中で実はテレビから(歌が)流れてくるのですが、それだけではなくて、そのテレビ(のシーン)が終わった後、本編の方でも流れていくというシーンも考えてやってみたら、それがすごい良かったんです。

 その時は「映画の中でだけ使おう」ということだけだったのですが、ポスターを作る段階で、ポスターは宮崎駿が書いてくれたのですが、ちょっと顔を見上げているじゃないですか。それを見ていて、「映画のコピーももしかしたら『上を向いて歩こう』なのかな」と。

 これは屁理屈なのですが、『上を向いて歩こう』の歌を知らない人たちに、「上を向いて歩こう」と言うのは今の気分にピッタリなのかなと。どうしてかといったら象徴的に言うと、今、僕なんかもそうですが、携帯ですぐにメールを見たりして、歩きながらみんな下を向いているじゃないですか。そうすると、「下を向いているとろくなことがないし、今、前に進むのもしんどい時代だけど、後ろにも後ずさりしたくない。でも、上を見れば何かいいことが起こるんじゃないかな」と、ただそういうことをふと思ってみたんですよね。

 それでみんなに提案したら、みんなが「いい」と言ってくれたので、「じゃあこれでいこう」と、まあそういうわけで非常に個人的な動機から、この「上を向いて歩こう」という(キャッチコピーになりました)。でも、まさか宮崎駿が嫌いだとは知らなかったですね(笑)。ビックリした。だいたい僕の好きなものを、宮崎駿は「嫌いだ」と言うんですね。僕が「好きだ」と言うからいけないんですね。僕が「嫌いだ」と言うと、「好きだ」と言うんですよ。

――『ゲド戦記』の時は主題歌の手嶌葵さんが声の出演もされました。今回もそういう可能性はあるのでしょうか。

鈴木 そんなこと言うと、バレちゃうじゃない(笑)。手嶌さんから立候補がありました。立候補があったので、ある種のゲストキャラというので、彼女にちょっと出てもらおうかなと。どういう役をやるかというのは見てのお楽しみで、結構いい役なんですよ。

――制作費がどのくらいなのかということと、どのくらい興行収入がいけば成功だとお考えになりますか?

鈴木 そういうことを僕は考えないんです。一切考えないんです。問題になっているんですよ、僕は会社の中で。「制作費を少し考えろ」と。

 だいたい僕は予算書というものを作ったことがないんですよ。制作会社の方々から、いろいろご批判もいただいているんです。だいたい、ないですよね。僕の頭の中でいろいろやっていて、たまに間違えるのですが。

 そういうご質問あったから言いますが、映画はトントンを目指します。かかったお金を何とか回収はしたいですよね。「余分にもうけてもしょうがない」と思っている。要するに「トントンでありさえすれば次の作品が作れる」。これが僕らの大きなテーマです。ジブリはいろんなことやっているように思われるかもしれませんが、僕としては映画を作る(のが目的で)、それを邪魔するものはやらないつもりなんです。もし、お金をもうけたいなら、ほかの商売をやりますよ(笑)。

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