作品内容が変わることはない――宮崎駿氏らが語る、大震災と新作『コクリコ坂から』(2/6 ページ)

» 2011年03月28日 22時05分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

『さよならの夏』は鎮魂歌のように思えた

『さよならの夏』(森山良子、1976年)

万里村ゆき子(主題歌作詞) お話をいただいた時に宮崎駿さんの脚本も一緒にいただいたのですが、びっくりしました。というのも、私は東京育ちなのですが、(物語の舞台となる)横浜がとても好きでした。少女時代から山下公園で外国から来た船を見るのが好きで、大桟橋へは日曜日にはしょっちゅう見に行っていました。自分では“昔の横浜少女”と言っていたのですが、それから何十年も経って、スタジオジブリからいただいたお話が横浜の話だったということで、また少女に戻ったみたいでとてもうれしくて、何かワクワクしています。

 あの時は本当に幸せで、私の生きている時にこんな大震災が起こるなんてことは夢にも思っていませんでした。年をとってからそういうことにあうということはとても悲しいことですが、「私が若い時にこの震災にあっていたら多分この歌は書けなかっただろう」と考えました。先ほど予告編を見せてもらったのですが、胸がいっぱいになりました。この歌が震災を受けられた方やみなさんにどう伝わるか分からないのですが、とても穏やかな歌なので聞いてもらえれば幸せです。

 作曲の坂田晃一さんとはテレビドラマの主題歌などで、何度もご一緒させていただいています。いつもそうなのですが、先に坂田さんのメロディがあって、後から私の詩を入れさせていただいています。坂田さんのメロディは2〜3回聞いたり、譜面で読んだりすると、すぐに絵が浮かんでくるんです。私の中で浮かんできた絵のイメージを字に変えていくだけの作業なので、先ほど鈴木さんに「苦労した方がいいよ」と言われたのですが、苦労しないで書かせていただきました(笑)。

坂田晃一(主題歌作曲) 計算すると34年前かと思いますが、そういった時代に作った歌をスタジオジブリの映画、それも非常に注目される作品の主題歌として取り上げてもらったことは本当に光栄で、とてもうれしく思っています。感謝もしています。

 『さよならの夏』は音楽的には少しの切なさと少しのうれしさの間を行き交うようなメロディです。メロディのイメージをさらに膨らましていただける万里村さんのすばらしい詞が付いていますし、また、今回新たに書いていただいたワンコーラスの詞もすばらしいです。『さよならの夏』が『コクリコ坂から』の主題歌としてきちんと役割を果たせるように、ということを作った人間として切に願っています。

 万里村さんはどうか分からないのですが、歌というのは世に出てしまうと、例えがあまり良くないかもしれないですが、「独立した子どもがほぼ音信不通になってしまった」というような、自分の曲でありながら、自分の曲ではないという感じがしますし、この曲は特にそうでした。しかし、今回このように取り上げていただいて、まず「また自分の手元に戻ってきた」という感じがしました。

 そしてこれから、かつてとは違う手嶌葵さんのすばらしい歌声と、武部聡志さんの卓越した編曲によって、また違う装いを持って、みなさんに聞いていただけるということは、またとてもうれしいことです。先ほどからお話が出てきていますが、大震災の後の大変な時期ではありますが、「こういった時代でも、この歌は曲も詩もみなさんに何とか受け入れていただける歌である」と私は考えています。ですので、主題歌として良い結果が得られればと思っています。

武部聡志(主題歌編曲・音楽担当) 私はずっとポップス畑と言いますか、歌ものと言われる音楽の畑を歩いてきたので、映画の音楽は少なくて、アニメ映画に関しては今回が初めてです。その初めての作品が憧れのジブリ作品であることを本当に光栄に思っています。

 東京オリンピックの年、僕は小学生だったのですがよく覚えています。そのころ物は本当になかったかもしれませんが、やはり子供心に夢を持っていました。「その夢が今の日本を作ってきたんだ」と思っています。僕らは音楽を通じて、また新たにそういう夢を伝えたいと思います。

 34年前の曲なのですが、今聞いても色あせない。この間、手嶌さんとレコーディングした時、曲も歌もキラキラ輝いていたんですね。「やはり良い曲、すばらしい曲というのは、そうやって歌い継がれていくべきものなんだな」と痛感しました。今、こういう時期ですが、映画の力や音楽の力で少しでもみなさんの力になりたい。優しい気持ちにみなさんがなってくれることを願っています。

宮崎吾郎(監督) 今、自分たちがこうして映画を作っていられるのは、やはり自分たちが支えられているからだと、震災から約2週間が過ぎて思っています。

 ちょうど震災の前日が、『さよならの夏』のレコーディングの日でした。その日聞きながら、「『さよならの夏』は単に若い女性が好きな男性のことを思っている歌ではなくて、もう少し広い意味を持っているのではないかな」と感じていました。それはどういうことかと言うと、その時、鎮魂歌のように僕には思えたんですね。

 その直後に大震災があって、偶然としか言いようがないのですが、この歌の持っている力というか、意味というのが僕にはものすごく重たく感じられました。今、僕たちが作っている映画が僕たちを支えてくれているように、この歌が震災で傷ついた人たちの支えになってくれればと思っています。

手嶌葵(主題歌アーティスト) (『ゲド戦記』の『テルーの唄』に続いて)また主題歌を歌わせていただけて、本当にうれしく思っています。私にとってすてきなことが2回あるというのは、本当に幸せなことだなと思っています。今回、被災にあわれた方々にどう言葉をかけたらいいのかまだ自分でもよく分かってはいないのですが、一緒に手を握り合って前に進んでいけたらと思います。

『ゲド戦記』公式Webサイト

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.