調査・分析に熱心な人の“当事者意識”を疑う

» 2011年03月23日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 仮に今、東北関東大震災の被災者に対して「生活支援に対する行政の対応について満足ですか?」といったアンケート調査をして、「満足」「やや満足」の人たちが60%いたとすると、「おおむね対応はうまくいっている」と安心してよいでしょうか。多分、これを「良し」と評価する人はいません。「何%が満足しているか」などという話にも意味がありません。

 普通は満足していない人たち、「まったく不満」とした人たちに焦点を当て、「その不満やお困りを解消しよう」「手を差し伸べよう」「できることはないか聞いてみよう」と考えるはずです。救援・復旧にめどがつき、復興に向かって進み始めた時にこのような問いをして、結果を集計・分析し、傾向などを見ることは今後のために大切ですが、コトの最中において集計・分析などを行って傾向を云々するなどというのは、大切なことを見失っているズレた行動です。

 顧客への満足度調査、自社のブランドや知名度に関する調査、自社の組織風土や従業員満足度に関する調査など、何でもよいのですが「調査」というものをやりますと、ほぼ反射的にその結果を集計して、平均や偏差を出したり、グラフにしてみたりしたくなる人は少なくありません。というよりも、「全体の傾向や特徴を集計・分析・コメントし、これが詳細でよく当たっていますよ」というのをウリにしている調査商品が多く、その分析やコメントに期待する会社が多くあります。

 何かの参考になるかもしれないので、まったく意味がないとは言いませんが、そういう「集計がなされたもの」「全体を対象とした分析結果」などは、得てして大切なことを見失わせる、問題を見えなくしてしまうというマイナスの効果があります。

森を見て、木を見ず

 全体の傾向に関心を持つということは、不満や文句、意見や何か言いたいことがある顧客や従業員、そのほかの人々の個別の貴重な声を、「少数だから」という理由だけで埋もれさせていることです。“コトの最中”なのに、「満足している」人の割合に関心を持って、不満やお困りに手を差し伸べないのと同じでズレた行動と言わざるを得ません。

 不満や文句、意見や何か言いたいことの中に、自分たちが反省し、見直すべきポイントがあるかもしれない、あるいはそこにリスクやクレームや衰退の芽が潜んでいるかもしれない、とは考えず、雰囲気で「特段の問題はなし」と結論づけるのは、もっと言えば、その組織に対する当事者意識を持っている人の思考とは思えません。

 顧客が会社や商品のファンになる、逆に文句やクレームをつけるのは、全体傾向とどのような関係にあるか。従業員が組織へのロイヤリティを高める、逆にやる気をなくしたり辞めたりするのは、全体がどうならそのようになりやすいか。それが雰囲気の話ではなく、論理的に明確になっているなら全体の傾向に関心を持つことは有意義なことです。しかしながら、そんな会社はほぼないと言っていいでしょう。

 そういう関連も曖昧(あいまい)なままに全体を何となく眺めているから、例えば人事管理では退社の意向を打ち明けらたり、メンタルヘルス不全が発覚したりするのが「唐突」で「急」なことに感じられるのだと思います。何となく分かったような気にはなるが、実際には「木を見ず、森をぼーっと見ているだけ」「森を見ることで、木が見えにくくなる」ような調査はやめて、木の1本1本と丁寧に付き合う。それが、調査会社や評論家や学者やコンサルタントではなく、コトの最中にある当事者らしい行動なのです。(川口雅裕)

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