日本の消費プロモーションに足りないものちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2011年03月21日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2009年3月22日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。ちきりんさんが茨城で被災、東京に戻るまでのドキュメントはこちら→「03.11 大惨事とミラクル」(参照リンク)


 前回は日本の個人金融資産についてご紹介しました。

 →若者はお金を持っていないんです!(参照記事)

 個人の収入は支出と貯蓄に分かれますが(収入=支出+貯蓄)、個人金融資産とはこの貯蓄部分が蓄積したものです。金融機関各社は、この部分を「預金してください」「保険に加入しませんか」「株を買いましょう」などと奪い合います。

 一方、家電メーカーも旅行会社も携帯電話会社も出版社もレストランも、つまり金融以外の一般企業は「支出」部分を奪い合います。消費者は「携帯代が高いから外食費を減らす」とか、「食事代を切り詰めて服を買う」という行動をとるので、企業側から見ればまさに「消費支出の取り合い」です。

 ちなみに総務省の家計調査(2010年)によると、世帯主の年代別にみた世帯あたりの月額支出額(年平均)は下に示す通り。

  • 20代以下……17万4210円
  • 30代……24万6359円
  • 40代……30万2300円
  • 50代……29万9922円
  • 60代……25万6985円
  • 70代以上……19万9936円

 金融資産ほど高齢者への偏りはありません。また、40〜50代世帯と20〜30代世帯の支出額の差は、月に10万円ちょっとに過ぎません。この程度なら、親との同居や共働きも多い20〜30代の場合、自由になるお金の額は40〜50代より多くなります。

 40〜50代世帯は子どもの教育費や住宅ローンなど固定的な必要経費も多く、自由になるのは「お小遣い制で月数万円」だったりします。このため、支出側を取り合う一般企業の多くは、これまでずっと若い人にターゲットしてきました。

支出を貯蓄に取り込むための努力

 しかしさらに重要なことは、金融業界は「貯蓄内での取り合い」に加えて、「支出を貯蓄に取り込むための努力」にも熱心に取り組んでいるという事実です。たとえば次のような“啓蒙活動”を多くの方がご存じでしょう。

啓蒙活動その1

 書店では個人向けマネー誌がたくさん売られており、そこに大量の金融商品の広告が出ています。これらの雑誌は、金融業界が資金を出し合って発行しているようなものであり、そのまま丸ごと「支出を貯蓄に移行させるための、マーケティング&プロモーションツール」です。

啓蒙活動その2

 金融機関系列の研究所やシンクタンクは、「子どもを大学まで卒業させるのに何千万円かかる」とか「安心して老後を過ごすために必要な資金は何千万円」といった調査を定期的に発表しています。

 これも金融業界全体で、支出側から貯蓄側に資金を取り込むためのプロモーションです。「将来こんなにお金が必要ですよ!」と不安をあおり、だから「無駄使いせずに貯金しましょう」と、お金を消費から貯蓄に呼び込むのです。

貯金がないと結婚できない!?

 かつての日本では、お金を個人に自由に使わせるのではなく、金融機関に貯蓄させて(最終的には)国が吸い上げて特定分野に投資(配分)する、ということがずっと行われてきました。

 昭和の戦争期には「欲しがりません、勝つまでは」などという禁欲的(非消費的)なスローガンまで打ち立てられ、多くの人たちが国債を購入し(=貯蓄し)、それらのお金が戦費に回りました。

 戦後も同じです。復興のために「とにかく貯蓄しろ」キャンペーンが行われました。貯金させるにはインフレを抑えることが不可欠で、これが日本銀行のDNAにまでしみこむ“低インフレこそ我が使命”という思想につながっているともいえますし、当時は「誰のお金か判明しない無記名の割引債」まで用意され、お金持ちの資金を銀行が吸い上げていました。

 しかし高度成長を経て、日本は経済大国になりました。本来であれば、貯蓄ではなく消費を謳歌する社会に移行するはずです。所得の減少で近年貯蓄率は低下傾向にあるものの、国と金融業界が一体となって繰り広げたマーケティングの効果で、日本人には「貯金がないと結婚できない」「貯金がないと老後が悲惨」などの意識は強く植え付けられています。

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