30代前半が、“ゆきづまって”いる吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年03月18日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

格差は意図して作られた

 ここ5〜6年、賃金などの格差が問題視されてきたが、それは得てして「非正規VS. 正規」といったとらえ方が多かった。しかし、30代前半の正社員をよく観察すると、待遇などの面で差がジワリジワリと広がっている。かつてこの世代の正社員の間では、いまほど差は大きくなかった。

 結論から言えば、私はこの差はここ10数年、経営者や役員、人事部など経営サイドが意図して作ったものと考えている。言い換えれば、もはや、多くの会社(特に中堅・大企業)は30代前半のすべての社員に今後も社内に残り、40〜50代になったときに幹部(課長級以上)として“がんばってほしい”とは期待していないのである。

 だが、このことをよくいわれるところの「早期選抜」ととらえるのは誤りだ。30代前半で優秀な社員を課長などにする試みは、一部の大企業では私が知る限りでいえば、10年ほど前から始まっている。

 むしろ、総額人件費を厳密に管理するために正社員をいくつかのグループに分けようとしている。その試みの一環として、“30代前半の社員までもがふるいにかけられている”と認識するのが実態に即している。実際、中堅・大企業の人事部幹部がはっきりと口にする言葉が次のようなものである。特に90年代後半ぐらいから慢性的に売り上げが伸び悩む傾向の企業で耳にする。

(1)現在、総額人件費を抑え込むために役職(ポスト)を減らしている。今後もその傾向は変わらない。

(2)課長、部長などへの昇格管理を厳密なものにしていきたい。

(3)年収にすると、正社員でも今後は500〜600万前後で頭打ちにしていかざるを得ない。そこから上がるのは課長などになった社員に限られる。

(4)正社員をいくつかのグループに分類したい。「幹部候補」「それを支える社員」「短時間正社員」など。

 私が取材したところ、(2)については不十分な企業が多いが、金融、流通、小売業界などの企業は(3)と(4)を着々と進めている。(3)については、時事日想「年収500万円で終わらないためには、どうすればいいのか」でも紹介した。

 ただし、(3)は総合商社やメガバンク、食品、ビールといった大手メーカーなどでは聞かない。その理由は、これらの企業は年功序列制度のベースになる職能資格制度の運用力を兼ね備えているからだ。このような企業は「古い年功序列」(多くの社員が年功を重ねると、課長などに昇格していくという意味)ではなく、巧妙に業績主義を取り入れ、今の時代に即したスタイルにしているので、(3)の試みをしなくとも成り立つのである。

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