100円寿司時代に高級路線で成功した理由とは?――金沢まいもん寿司・木下孝治氏嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(3/5 ページ)

» 2011年03月11日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

自分が食べたいもの、家族に食べさせたいものを出す

 今回訪れて最も驚いたのは、鮮度が良くないと出せないニシンの握り寿司を食べられたことである。日本海の豊富な幸を活用するなど、ネタに対するこだわりを感じるのだが……。

 「回転寿司業界に進出した動機の1つとして、当時のこの業界には『安かろう悪かろう』がはびこっていたことがあります。私は自分が本当に食べたいもの、家族に食べさせたいと思えるものを出す回転寿司店を作ろうと思ったんです。

 現在シェアを伸ばしている大手の100円寿司チェーンは、95%以上、冷凍ものを使用しています。なぜなら、大手は時化(しけ)などの影響で漁獲高が変動するというリスクを回避し、安定供給が可能になる方法を採らざるを得ないからです。それに固定費を抑えるために、従業員はパートやアルバイトを主力にしています。

 それに対して金沢まいもん寿司では、生ネタが全体の7〜8割に達し、冷凍物は2〜3割に過ぎません。従業員も正社員が主力です。また、弊社は中小チェーンでは持っていないことが多い、『買参権(ばいさんけん)』(=市場で競りに参加できる権利)を持っていることが強みになっています。そのため、金沢港や能登、氷見などでその日の朝に水揚げした鮮度抜群の生ネタを各店舗に出せるのです。それに、寿司ネタだけではなく、寿司に関わる米、醤油、水、塩、酢、味噌なども加賀料理の伝統を受け継ぐものにこだわっているんです。

 上場している大手企業だと、変動が大きいものは扱いにくいので、(高級回転寿司には)絶対参入できないんですよね」

五種盛り

 石川県の港で揚がる生ネタが大部分を占めるということは、商品の独自性や異質性を際立たせられる半面、仕入れの不安定化のリスクを抱えることに結び付くと思えるが……。

 「正社員や準正社員を2〜3人1組にして各地の港に行かせ、現地の漁師たちとパイプを作り、常に最新の情報が入ってくるようにしています。また、講演会に行かせたり、うまいと評判になった寿司店に食べに行かせたりして、とにかく現場情報のリアルタイムな収集に力を入れて、それを社員全員で共有し、生かすようにしています」

 スケールメリットを出せない中小規模の回転寿司チェーンとしては、「情報力こそが生命線だ」という認識である。金沢まいもん寿司は、広範かつ現地密着型のリアルタイムな情報収集でリスクを低減させつつ、結果として、クオリティの高いネタを比較的低価格で来店客に提供できていると言えるだろう。

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