銀行が住宅ローンに力を入れる理由世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる(2/3 ページ)

» 2011年03月10日 08時00分 公開
[川瀬太志,Business Media 誠]
誠ブログ

メイン口座が増える

 ただし、いくら安全な資産といえども、銀行自らが「赤字」を増やしていくことはありません。住宅ローンを積極的に推進する理由に「長い目でみると総合的にメリットがある」からです。

 例えばA銀行で住宅ローンを組むと、多くの人はA銀行がメイン口座になります。給与振り込みや公共料金、クレジットカードの引き落とし口座などを利用してくれます。また子どもの学費の支払い口座になれば、大学入学時には教育ローンも取れるかもしれません。退職金を受け取ればそのまま運用してもらえるかもしれないし、年金受取口座につながるかもしれません。

 このように家計のお金が集まる仕組みを作れば、銀行にとっては調達コストを引き下げることになります。住宅ローンでもうけることができなくても、収益全体に貢献すればいいのです。

BIS規制上リスクアセットがいい

 銀行は企業にお金を貸すより、住宅ローンを推進した方が自己資本比率が良くなることをご存じでしょうか。「自己資本比率」という言葉を聞いたことがない人もいるかもしれません。銀行には「自己資本比率規制」(BIS規制)という世界中の銀行が共通で守らなければいけないルールがあります。

 BIS規制とは、銀行の財務の健全性を保つために国際金融当局が一律で定めている規制のこと。融資などのリスク資産を分母に、普通株や内部留保などの自己資本を分子として自己資本比率を計算して、一定割合(国際銀行は8%、国内銀行は4%)を上回るように義務付けているのです。

 自己資本比率の計算式は、「自己資本÷融資総額」ですので、自己資本比率を上げたいと思えば、分子を大きくする(=自己資本を増やす)か、分母を小さくする(=融資総額を減らす)しかありません。というわけで、自己資本比率規制が厳しくなると銀行は分母を小さくするために融資額を抑えるので「貸し渋り」や「貸し剥がし」が行われたりするわけです。

 でも、融資額を減らさなくても分母を小さくするワザがあります。それは「リスクウェイト」というもの。

 BIS規制では、資産をリスクの度合いに応じてウェイト付けして査定した上で加重平均します。一般法人向けの貸し出しは100%評価。ただ、その企業の信用度が低くければ評価額が増えていき、最大150%で評価しないといけません。例えば1億円貸すと、普通の場合でリスクウェイトは1億円。最も信用度の低い先の場合には1億5000万円で計算しなければいけません。

 一方、住宅ローンのリスクウェイトは35%評価(BIS規制バーゼルII基準より)。住宅ローンを1億円貸しても、リスクウェイトは35%なので自己資本比率の計算上は3500万円になります。

 法人向けの融資を1億円回収して、住宅ローンを1億円実行すれば、BIS規制の自己資本比率は分母(貸出資産)が「1億→3500万円」に減り、結果として自己資本比率が良くなります。というわけで銀行はリスクウェイトの低い住宅ローンを積極的に推進しよう、という動きがになるのです。

 住宅ローンのリスクウェイトが法人向け融資よりはるかに低いのは、前述したとおりデフォルト率が低いから。BIS規制は銀行の融資姿勢に大きな影響を与えますが、2009年の金融危機をきっかけに、銀行の健全性を高めるために規制が強化される方向のようです。