読むことができない発売前の記事……記者はこうして手にする相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年03月10日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 仮に、噂の根源となった雑誌が「週刊○○」であることが判明したとする。編集部に問い合わせをすればどうか。意図的に販売部数を伸ばしたいなどの思惑がない限り、発売前の記事内容を教えてくれる奇特な編集部、編集者は皆無だ。

 幸い、筆者は現役記者時代からさまざまな媒体でアルバイト原稿を書き、経済ネタのアドバイザーを務めていたので、こっそり記事の有無、あるいはゲラを入手して裏取りをした。もちろん、ネタの貸し借りを含めての“取引”だ。だが、同僚の多くは別の手立てを使っていた。

 まずは、大学の同期のツテ、あるいは仕事上で付き合いのある広告代理店を通じて記事の存在、あるいは発売前の雑誌を入手していた。

 ほぼ全ての出版社が大手、中堅の広告代理店との付き合いがある。広告が入らなければ雑誌が成り立たないからだ。このため、編集部がガードしても営業サイドからこっそりネタが抜けてしまうのだ。

 テレビや一般紙が入手する発売前の記事は、こんな具合で漏れ出すのだ。

溢れる一次情報

 だが、こうした「裏トリ」でほぼ全て噂を潰してきた筆者だが、一度だけ裏を取れない事態に遭遇した。

 ある日、外為・株式・債券市場が一斉に荒れ始めた。市場に流れた噂は「現役首相と闇の勢力との癒着ぶりを某写真誌がスッパ抜いた」というもの。

 当時、この写真誌には編集部幹部、編集者、ライターら数人の筆者の知り合いがいたので、何人かの携帯電話を鳴らした。3人目で記事が出るという事実を確認できたが、「癒着の度合い」を裏付ける写真、ゲラは絶対に見せることができないと突っぱねられたのだ。支持率が落ち込み、政権末期との下馬評が高まっていただけに、同編集部は「政権にトドメを刺す」との意気込みを持ち、情報管理を徹底させていたのだ。

 筆者が広告代理店経由で手を回しても、問題のゲラは入手できなかった。最終的には、同誌に通年で大量の広告を出稿していた某大企業の広報部に連絡し、掲載誌として事前配布された見本誌を入手、他のメディアに先がけて記事の存在を確認、屈辱的ではあったが会社として“後追い”に着手することができたのだ。

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