米坂線のディーゼルカーは、見渡す限りの雪原を走っていた。惰性走行のためエンジン音は小さく、コトン、コトンというレールの響きだけが伝わってくる。小さな町に入り、レールのリズムがゆっくりしていく。やがてカタカタと響いてポイントを通過し、駅に停車した。小国駅だった。列車の交換はないけれど、ここで数分停車する。駅舎は跨線橋を渡ったところ。わずかな時間だから駅前散歩は難しそうだ。
それでも、ホームに積もった雪でも踏んでみるかと、列車を下りてみた。雲間から太陽が現れて、あたりがぱっと明るくなった。明るいのに静かだ。それだけでも日常とは違う体験である。冷たい空気が喉を通る。草や土の匂いがない、澄んだ空気。うまい。
そのとき、視野の中で何かが光ったような気がした。しかし見回してもガラスや鏡、ライトの類はない。乗客の誰かがカメラのフラッシュを使ったか。いや、それもなさそうだ。あ、また光った。今度は分かった。空気が光った。それも微かに。視野にひとつかふたつ。銀色の粒が舞っては消える。光ったところに手を伸ばしてもつかめない。明るいところや日陰に入ってみたけれど、どちらが見つけやすいかは分からない。
キラ……キラ……と光る空気。その光を見つけようと、私は動き回った。ふと気がつけば、私のそばに制服姿の女子高生が立っていた。不思議そうに私を見ている。そこで私は、自分がかなり挙動不審なオッサンだと気づいた。思わず、弁解するように話しかけた。
「あ、あのね、空気が光ってるんだ。分かる?」
彼女は頷いた。
「これ、なんていうんだっけ。スノーダスト? 違う、ダイヤモンドダスト!」
彼女の表情が少し柔らかくなった。
「こういうの、いつも見られるの?」
彼女は首を振った。「じゃあ僕たちはラッキーだね」というと、彼女はちょっとだけ笑顔を見せて、列車に乗り込んだ。私も続く。そろそろ発車の時刻だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング