アップルにも負けない!? トヨタの徹底した現場力

» 2011年03月09日 08時00分 公開
[野町直弘,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:野町直弘

アジルアソシエイツ社長。慶應義塾大学経済学部卒業後、大手自動車メーカーに就職。同社および外資系金融業にて調達・購買実務および、調達部門の立ち上げを経験。コンサルティング会社にて調達・購買、ロジスティック、BPR、SCMなどのプロジェクトを担当。ベンチャー系WebインテグレーターでCOOおよびB2Bチームの立ち上げを行う。その後独立しアジルアソシエイツを設立。


 前回は米アップル社のすごい調達について取り上げました。

 →アップルのすごい調達戦略

 その中で彼らのCSR調達の監査についてアップル社が公開した監査報告書の内容(「2月14日にアップルが取引先監査報告書を公開し、37拠点でCSR違反のような規範違反があることが判明した。彼らは中国を中心とした全世界の127施設を対象に調査を行った。この調査は2010年6月、ティム・クック最高執行責任(COO)らを中国に派遣し、独立した第三者の調査チームが取引先の従業員1000人以上を対象にメンタルヘルスや労働環境などの聞き取り調査を実施した」)について、このような徹底した現場監査を行っているというすごさにびっくりさせられました。

 このような活動は一般的に調達リスクマネジメントの一手法と言えます。

 以前、米国のスポーツ用品メーカーの東アジアのサプライヤが児童労働をさせていたことで米国内での不買運動につながったことがありました。

 この事件を発端にして、企業が「たとえ調達先(サプライヤ)の問題であったとしてもCSR違反等により自社のブランド力の著しい低下につながるような『風評リスク』について、事前にリスクを回避、軽減するような活動をしなければならない」という動きが出てきています。

 これを調達リスクマネジメントと言うのです。

トヨタの現場力

 調達リスクの代表的なものは取引先の事故や天災、そのほかの経済的、政治的な状況でモノを仕入れることができなくなる「供給リスク」です。今回は日本を代表する企業であるトヨタ自動車の供給リスクマネジメントの話です(これはトヨタに部品を販売している部品メーカーの方から聞いた話なのでその真偽を確かめたわけではないことをまずはお断りしておきます)。

 「ある部品メーカーの営業にトヨタの調達部門から問い合わせがあった。問い合わせ内容は『ある大手素材メーカーの●●工場で火災が発生したが、御社の供給に問題はないか』というものだった」そうです。

 この部品メーカーの営業の方は驚いたそうです。なぜなら、当該大手素材メーカーの製品(素材)はこの営業マンの部品の主原料ではなく、どう考えても●●工場の火災と自社の生産がつながらなかったからです。しかし、実はよく調べてみると●●工場での副産物がこの部品メーカーの主原料の原料であったのです。トヨタはそれを把握していたのです」という内容の話でした。

 一般的にこのような管理を「源流管理」と言います。

 源流管理とは、もともと「品質管理」の用語であり、主に製造品質のバラツキを管理するために根本となる問題点を見つけ出し、徹底的な改善を進めるというものです。近年このような「源流」に起因する品質問題や供給リスクが増えています。

 特にハイテク製品については複数の部品メーカーが代替品を生産しているものの、その特定のデバイスの特定の原料は1社の1工場に生産を依存しており、「その工場で火災が発生して、多くの企業の生産が止まってしまう」というような状況が挙げられます。

 このように源流管理は調達リスクマネジメントにおいても非常に重要な管理手法です。しかし、調達リスクマネジメントについては「概念すらない」という企業が少なくありません。そのような時代であるにも関わらず、トヨタの徹底した源流管理とそれを調達担当者が把握しているというすごい話です。

 アップルにしてもトヨタにしても共通したキーワードは「徹底力」「現場力」です。源流管理を徹底することはアップルの徹底した監査同様、費用と時間がかかることです。それを徹底している日本企業もあるというすごい調達の話の続きでした。(野町直弘)

 →野町直弘氏記事バックナンバー

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