高級チョコとコンビニが組んだ――ゴディバ&セブン-イレブンの戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年03月09日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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リスクと背中合わせ、ゴディバの販促戦略

 それは「間口拡大」だ。ゴディバは「価格が高いため百貨店などでゴディバの製品を購入する客層は40〜50歳代が中心」(ワールドビジネスサテライト2010年4月7日放送より)だという。

 ターゲットの何が問題なのか。中高年は健康の問題などで、食生活を変えることもある。また、販売拠点としての百貨店は、店舗数と来店客数の右肩下がりが続いている。従来の顧客層と販売チャネルだけで勝負していれば、やがて限界が訪れることは目に見えている。

 ゴディバがコンビニエンスストア以前に展開をはじめた販売チャネルの間口拡大策は、「駅ナカ」への展開だ。ターミナル駅なら、JR新宿駅西口の小田急百貨店側改札近く。郊外駅なら東武線柏駅の駅ナカ。そのほかの駅にも全国6店舗を展開すると2010年に発表。ゴディバジャパンの担当者は「新しい客に買ってもらう場所の選択肢に駅ナカがあっても良い」と語っている(同番組)。

 セブン-イレブンの店舗数は全国1万2100店。200店規模の自社チャネルや徐々に展開していく駅ナカと比べれば、格段に市場のカバレッジを高め、既存顧客層以外の新たな顧客層へリーチ(到達)することができる。

 既存顧客との「接触頻度」も高めることとなる。ギフトではなく「自分買い」。狭小スペースに品目を絞り込んで展開する駅ナカの品揃えは、少量個包装タイプを中心とした「自分買い用」をコンセプトとしていると思われる。

 セブン-イレブンとの展開ではさらにそれを推し進めている。バレンタイン&ホワイトデー用ギフトではなく、アイスクリーム棚のカップアイスとアイストリュフ2粒入りは、そうした需要を取り込む武器なのだと解釈できる。今まで、百貨店店舗まで足を運んで購入し、保冷剤を加えて持ち運んだのだが、不便なく、地元駅でいつもの会社帰りに「自分にご褒美」できるという利便性の提供である。

 販売チャネルの持つ重要な機能として、見込み客・顧客との「接触」をすることと、その機会で「販売促進」を行うことがある。セブン-イレブンの棚のエンドのコーナーで陳列を展開することは、ゴディバ単独ではなし得ないことだ。

 一方、「間口拡大」は既存顧客の離反というリスクもともなう。ターゲット層の拡大や、「手軽に手に入る」という利便性を高めたポジショニングは、ゴディバの「スペシャルティー」にひかれている従来のファンが感じている価値を損なう危険性と表裏一体である。実際に2007年9月9日付日経MJのインタビューで、当時のゴディバ・ワールドワイドのジム・ゴールドマン社長が、「拡販で希少価値が薄れないか」との質問に対し、「ブランドは守らねばならず、百貨店に出る際は売り場の内外装に投資している。低価格志向の店には商品を置かない」と明言していたほどだ。

 では、どうするか。1つの解は「期間限定」だ。もとより、「エンド」はシーズン商品やギフト商品のためのコーナーだ。3月14日のホワイトデーが終われば、ゴディバの商品は姿を消すだろう。もう1つのアイスクリーム棚の商品はどうか。恐らく、春本番前には姿を消すと思われる。「いい商品を少量食べたい」と思う冬季限定の展開である。間違っても「ガリガリ君」が棚を3つも4つも占有するような暑い季節まで居続けることはないはずだ。

 どんなにいい商品を作っても、消費者に手に取ってもらえなければ売れない。販売チャネルの構築と、そこで行われる販促は、商品とターゲットとの整合性を保ちつつ、息の詰まるようなチャンスとリスクのバランスの両面を見据えながら展開されているのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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