やりすぎた“チャリティー消費”には毒が出る「半農半X」 ビジネスコンサルタントと、農業と……(3/3 ページ)

» 2011年03月07日 08時00分 公開
[荒木亨二,Business Media 誠]
誠ブログ
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ボルヴィックの企画が火をつけた

 寄付付き商品ブームの起源はミネラルウォーター「ボルヴィック」の“1L for 10Lキャンペーン”に見ることができる。「水を1リットル買えば、水不足の国に寄付をします。ちょうどそれは10リットル分となります」という仕掛けだった。

 水を買い、水を寄付するという明確なシステムが分かりやすい。自分が購入した10倍もの寄付ができるというインパクトに加え、「ワンリッター・フォー・テンリッター」という言葉の響きが心地よく消費者の胸に突き刺さった。企画の妙、秀逸なマーケティングとして歴史に名を残すプロジェクトである。

 現在こうしたマーケティングはCRMと呼ばれている。「Cause Related Marketing」の頭文字を取ったもので、Causeとは大義といった意味を持つ。つまり何らかの意味や目的を伴う販売活動のようなイメージである。

 伝統的なマーケティングにおいてCRMといえば、まず「Customer Relationship Management」を想起するのだが、最近はCSRを意識したチャリティーのCRMの方が目立っている。こうした基礎を築いたのがボルヴィックと言える。

 また、日本人の飽食ぶりを正しながら貧困国を支援する「TFT」という活動が広まりつつある。Table For Twoの略で、「1回の食事をすることで20円が貧困国に寄付される」という発想である。

 こちらは“食と食”というつながりにおけるチャリティー。ボルヴィック同様にポリシーが明確な上、「食品の廃棄ロス」「栄養バランスの偏在」といった、日本人の食の在り方まで考えるきっかけを提供しており、素晴らしい試みとして注目である。TFTに賛同した企業が社員食堂に導入するなどの広がりを見せている。

 水と水、食と食。分かりやすいつながりがチャリティー消費のポイントである。

イオンの地味な戦略に見る正しいアピールの仕方

 スーパーなどを展開するイオンが2001年から行っている「幸せの黄色いレシートキャンペーン」は、地味ながら非常に賢いシステムを作っている。買い物をした際に必ず受け取るレシートを上手に利用した試みである。

 イオンの店内には地域のボランティア団体の名前が書かれた箱が設置されている。買い物を終えた消費者は、自分が支援したいと思うボランティア団体を選んで箱にレシートを入れる。すると、レシート金額の1%がその団体に寄付されるという仕組みだ。

 当時、私は書店のマーケティングの仕事をしており、いかに集客するかに関して日々新たなアイデアを練っていた。そこでピン! とひらめいたのが、イオンのレシートキャンペーンであった。普段はゴミ箱直行のはずのレシートに価値が与えられ、しかも自分の意志により支援先を選択できるところに、新しいチャリティー消費の可能性を感じたのだ。

 老若男女が訪れる書店。1等地に位置することの多い書店。当たり前だが、書店は“本を売る場所”という認識が強い。しかし、顧客属性の広さや好条件の立地を考えれば、“媒体価値”が非常に高いことに注目すべきなのだ。書店という業界は。本屋が本だけ売っていればよい時代は、とっくに終わっているのである……。

 私の中ではイオンのレシートキャンペーンをヒントに書店の店頭を活性化させるアイデアがひらめいた。それらをまとめてクライアントにレポートとして提出したが、ぽしゃった……。もう10年も前のことだろうか。

 その後のボルヴィックをきっかけとした寄付付き商品ブームが来るに至り、先駆けて仕掛けていれば息の長い、価値のある企画になったはずなのにと、悔やまれる。地域密着型の企業が、本当の意味で地域を支援する。これもチャリティー消費のポイントと言える。

やりすぎれば毒が出る

 日テレの社員が毎日黄色いTシャツで働いていれば、私は大いにその企業理念に賛同したい。民間企業でも国でも「タイガーマスク制度」をきちんと作り、恒常的・日常的に養護施設をサポートするシステムができるなら、もっと多くの善意を呼び込めるに違いない。

 「チャリティー=善行」がさまざまなところで見られ始める今、寄付に馴染みないニッポンの国民性を考えれば、悪いことではない。しかし、やりすぎれば毒が出るし、効果は薄れるし、消費者も飽きる。何のため、誰のため、そして合理性と永続性というテーマを、そろそろ考える時期にきている。(荒木News Consulting 荒木亨二)

※この記事は、誠ブログやりすぎた「チャリティー消費」には、毒が出る」より転載しています。

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