「私たちの老後の夢を、あの会社は一瞬にして奪った。絶対に許さない」――。埼玉県警が詐欺容疑で元会長らを逮捕した注文住宅販売会社「アーバンエステート」(埼玉県川口市、破産手続き中)の詐欺事件で、工事代金をだまし取られた60代の女性はこう語った。大量のテレビCMで「一生安心の家」をうたう一方、無謀な経営の果てに平成21年4月に自己破産。今も、約500棟の住宅が未着工や未完成のまま残されている。粉飾決算や異様な前払い金の催促、さらには使途不明金……。ワンマン経営者の「暴走」の軌跡を追った。(塩塚夢)
「外堀は埋まった。いける」。昨年暮れ、アーバンエステート旧経営陣の詐欺容疑での立件を目指していた埼玉県警の捜査関係者は、思わずこうつぶやいた。さいたま地検との協議なども経て、最終的に強制捜査着手にゴーサインが出たのだ。
顧客からカネを集めたまま企業が経営破綻するのは、顧客がカネを取り戻すのが非常に困難であるという意味で犯罪の色彩を帯びることは多い。だが、それを刑事事件として立件できるかどうかといえば、話はそう簡単ではない。
破綻した企業が株式を上場していて、有価証券報告書などで財務内容を粉飾していた場合には、金融商品取引法違反の疑いが生じる。しかし、アーバン社のように非上場の会社では、いくら決算書の内容が粉飾されていても、投資家を欺いたことにはならないので同法違反に問うことはできない。
会社側が「もうウチの会社はつぶれる」と知りながらカネを集めていたとすれば詐欺罪の成立する疑いが強いが、これも難度の高い捜査だ。平成21年1月に破綻した注文住宅販売会社「富士ハウス」(浜松市、破産手続き中)をめぐっては、元社長が顧客から詐欺罪で刑事告訴されながらも、静岡地検浜松支部は「詐欺を裏付ける証拠がない」として同年12月に嫌疑不十分で不起訴処分にしている。
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