「勘と経験」から「データ」へ? 変わる自販機販売戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年03月02日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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勘とデータが融合した自販機商品開発

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販売データから見たターゲット像

 同社にはほかの飲料メーカーや自販機運営外会社にはない武器がある。飲料の販売データを精緻に取得できることだ。

 同社は次世代自販機と呼ばれる自動販売機を現在約40台稼働させている。商品画像を表示し、画像にタッチして商品を選択する47インチの大型液晶ディスプレイ。その上部に利用者の属性(年代・性別)を判別するセンサーが搭載されている。利用商品×属性をPOS情報として取得できるのだ。また、Suicaを媒介に、個人情報は関わらない性別などの属性データも、カードリーダー・ライターを搭載した3000台の自販機から収集している。

「今までの自販機では取得できず、販売社もメーカーも分からなかった販売時点(POS=Point Of Sales)のデータを活用して、商品作りや売り方を通してお客さまの便益を高めたいのです」

 同社の代表取締役社長・田村修氏が取材に応じてくれた。そのための次世代自販機や地産のオリジナル商品だというのだ。

 今回も2010年から活用できるようになった、Suicaや次世代自販機のデータを活用した商品リニューアルを計画したという。データから見えてきたのは意外な消費者の購買像だった。

 果汁飲料は朝に購入されると思われていたが、実際には販売データからは「14時以降の構成比が高い」ということがわかった。つまり、「おやつなどの小腹満たしや、リフレッシュ時に飲まれる」と想定することができたという。

 また、商品を購入している性別も想定外だった。街ナカの自販機利用者は男:女=9:1であると言われている。しかし、同社の統計によれば、エキナカの自販機は男:女=6:4。女性に人気の高い果汁飲料のため、女性が買っているであろうという想定だった。しかし、実際には男性の購入が多かった。

 データだけで判断すれば当然、男性を狙ったリニューアルを行うはずだが…。

「あえて、女性!」というバイヤーの狙い

 「結局は、女性をメインに狙うことにしたんですよ」。田村社長は笑いながら話してくれた。そこには同社の製品戦略を考えるバイヤーの狙いがあるのだという。

 バイヤーにはトータルで見た販売データではなく、そのブレイクダウンと、それ以外の定性的な事実が気になっていたという。トータルで見れば男性購入者が上回る果汁飲料の販売数だが、初期段階ではまず、女性が購入しているという。インターネットを見てみれば、新発売した同社の果汁飲料に関してブログやSNS、掲示板などにいち早く書き込みをしているのも女性だ。

 「まず、女性が新規購入をして間口を広げ、その後、男性が購入してリピートを重ねるという動きが想定されたのです」と田村社長はいう。同社バイヤーもそこに注目して、女性を意識したネーミングやパッケージにこだわったのだという。

 E.M.ロジャースの「イノベーション普及論」では、まず新しいものに飛びつく「イノベーター」が動き、その後イノベーションの価値を評価して導入する「アーリーアダプター」が動く。その「価値を評価できる人=目利き」の態度を見て、一般的の人々「アーリーマジョリティー」が動く。

 エキナカ自販機では、イノベーターとアーリーアダプターが女性であり、男性がアーリーマジョリティーであるということなのだろう。だとすれば、バイヤーの狙い通り、女性が購入し、男性が認知しなければ販売は初速を得ず、ヒットせずに失速することになるのだ。

 マーケティングにおける「ターゲット設定」においても、Realistic Scale(規模)、Rate of Growth(成長性)などと並んで、Rank(優先順位)とRipple Effect(波及効果)の評価が欠かせないのである。

ロジックと勘の整合が今後の課題

 街ナカの多くの自販機は、どの自販機で何が売れたかというデータは残る。しかし、それが「いつ売れたか」という時間のデータが取れない。むろん、性別などの属性はまったく取得できない。その意味では、コンビニに大きく後れを取っている。JR東日本ウォータービジネスが次世代自販機とSuicaで取得できるようになった販売データ。それは大きな販売と顧客利便性を高める武器になる。

 「まだまだこれからです」と田村社長は言う。まだデータの蓄積が少なく、活用手法も確立していないからだと。

 それでも、勘に頼った今までの商品政策に比べて、ロジックに基づいた戦略立案ができるようになった。今回の「モモごこち」は、ロジックと勘のミックスによる戦略立案だ。その成果は果たしてどのような結果を生み出すのか。今後はさらにデータを活用した販売が確立していくだろう。その中で、勘と経験が整合されていくのか、その行方も非常に楽しみである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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