シンガポールからシドニーへの記念すべき初フライトには、世界各国から招待したマスコミ関係者とともに、シンガポール航空のチュウ・チュン・センCEO(当時)も同乗した。私も上空でインタビューする機会を得たが、CEOとのやりとりの中でも印象に残ったのが次の言葉である。
「航空需要は年々増え、最近は世界中のどの主要空港も混雑が目立っています。発着する便数をこれ以上増やせば、環境に及ぼす影響は計り知れません。その問題を、これからどうやって解決していくか? 一度のフライトでたくさんの乗客や貨物を運べる超大型機を選択したことは、じつは私たちにとって地球環境を守るための重要なステップだったんですよ」
この「環境性能の追求」というのも、A380の開発計画では重要なキーワードだった。ポイントの1つとなったのは機体の軽量化だ。機体が軽いほど使う燃料は少なくて済むため、全体の25%に炭素繊維強化プラスチックやエアバスが独自に開発したGLARE(アルミニウム箔とガラス繊維布を密着させた強化積層板)などの複合材を導入。従来機の設計手法に比べて15トンも軽くすることに成功した。A380で乗客1人を100キロ運ぶのに必要な燃料は3リットル以下で、これは乗用車でいうと最新のハイブリットカーと同レベルだ。航空機の大きな問題である騒音についても、A380は離着陸時の騒音レベルがこれまでの大型機のおよそ半分。世界一大きな旅客機でありながら、実際に乗ってみると驚くほど静かなのが分かる。
「東京からシンガポールへ入るときの便の機材はボーイング747でしたが、747だと機内で乗務員の方に飲み物の希望などを聞かれても、周囲の音がうるさくて何を言われているのか分からない。声を張り上げて会話する必要があります。その点、A380の機内は本当に静かですよね。こうして普通の声で話せるし、耳を澄ませば周囲の人たちの会話まで聞こえてくるのですから」
そう話していたのは、シドニーへの世界初就航便に一般客として同乗していた会社員のSさんだ。Sさんのシートは、主翼のすぐ後方──つまり本来であればエンジン音などに最も悩まされる場所である。にもかかわらず「静かだ」と彼に感想を言わせた事実は、特筆しておくべきだろう。
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