転職のリスクはどうすれば減らせるのか(1/2 ページ)

» 2011年02月22日 08時00分 公開
[増沢隆太,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)

RMロンドンパートナーズ(株式会社RML慶文堂)代表取締役。東京工業大学特任教授、コミュニケーション戦略家。人事コンサルタント兼大学キャリア教官兼心理カウンセラーで、東工大大学院では「コミュニケーション演習」の授業を行っているほか、企業では人材にも「戦略性」を重視する功利主義的アクティビティを提唱している。


 キャリアカウンセリングを申し込んでこられる方から、「今、転職すべきでしょうか?」と聞かれることは当然のようによくあることなのですが、実は答えはありません。

 先日、高校生と大人が語るUstream番組「高校生X大人」に、呼んでいただきました。考えてみれば友人の子どもたちはもう高校生どころか大学生やら、すでに社会人。「もし私に子どもがいたら、こんなかあ」と感慨にひたりつつ、お話ししてきました。

 結果から申しますと、「私の子ならこんな賢い子ではなく、もっと私のようにバカ丸出しだろう」と思いました。それくらいにみんな、しっかりした良い子でした。ただし「賢い」とは、勉強ができる、偏差値の高い大学に行けそうという意味ではありません。

 私は「キャリアに“正解”“不正解”はない」と常に申し上げています。このロジックをしっかり理解してくれたように感じたので、「この子たちは賢いなー」と思ったのです。きちんとロジックが理解できることこそ賢さだと言えます。

 ロジック理解ができなければ、そもそもこうした議論は成り立ちません。単に相手の言うことを聞かずに自己主張だけという、コミュニケーションとは別世界になってしまうのです。それは議論ではなく単なる言い合い、または大声コンテストです。そうならずに議論が進められるのは、参加者の高い知性だと感じます。

どうすれば転職のリスクを減らせるか

 麻雀は下駄を履くまで分からない。これはキャリアでも言えることです。「その転職が正しいかどうか」といったことは、実際にやってみるまで誰にも分からないのです。しかし、麻雀同様、推測はできます。少しでもリスクを減らす努力こそ、キャリア決定においては重要なことでしょう。

 では、どうすればリスクは減るでしょうか。「ロジックが組めない人」は、占いのように「良い転職・悪い転職」の答えをいきなり求めますが、そんな答えのない問いは無視し、「自分がやりたいことが、なぜその選択だと実現できるのか」を考えるべきです。

 ゆえに、まず「やりたいこと」が何であるかを整理する必要があります。例えば、「●●という業務がしたくて転職」であれば、その実現に必要な役割、役職、職務分掌といったポジション確保が必要です。それが確保できるかどうかの検証です。「給料を上げたい」のであれば、「それだけの年収提示が確保されるかどうか」となります。

 転職で禁句とされるものの、実は一番多い「人間関係が嫌で辞める」場合も同じです。転職すればそれが変わるのかどうか確認できなければ、今と同じ確率で人間関係の不適合が起こる可能性があります。

 例として挙げた中で、事前に予見できるものは何でしょう?

 ポジションと給与は、内定通知や雇用契約書があれば、一定の法的担保になります。こうしたものを求める転職であれば、担保となる契約書などが得られれば、成功の確率はぐっと高まりますし、なければ反故(ほご)にされるリスクは自分で背負うことになります。法律違反ではあっても、昨今のような厳しい景気環境では、特に中小企業など、雇用契約書を結ばないという例は現実にあります。「法律違反だ!」と言って改善されるなら良いのですが、そうでない場合であれば、そのリスクは織り込んで転職に踏み切るかどうかは自己判断になります。

 残念ながら、よほどの人材バリューのある方でない限り、現実問題で採用においては圧倒的に採用側が強い立場であるのは事実です。契約を結ばない企業に転職するにおいては、しっかりその自己責任を自覚して下さい。

 一方、人間関係の問題などはどうしましょうか。残念ながらこれを見抜く方法は存在しません。キャリア決定には、必ず偶然が伴います。どれだけ事前に社員と会おうが、面接で聞こうが、「入ってみなきゃ分からない」のが人間関係です。大企業も零細も関係なく、職人や芸術家のように、たった1人だけですべての業務を完結できるキャリア以外では必ず存在するリスクです。

 だから「人間関係が理由の転職は良くない、勧めない」と言われるのでしょう。そこを改善出来る保証は絶対にないからです。

 個別事由に加え、判断能力を向上させる存在もあります。それは良いキャリアアドバイザーの存在です。資格や職業としてのキャリアアドバイザーという意味ではなく、キャリアアドバイザー能力が優れている人が、身近にいるだけで、判断時に大きな助けになります。

 ただ単に自分の体験談を語るのはキャリアアドバイザーではありません。就業環境や雇用状況、特にその業界独自の経営環境などに詳しく、なおかつロジックが組み立てられる人がいれば、誰でもキャリアアドバイザーとして頼りにできると考えます。

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