「情報のつまみぐい」から抜け出せ、次世代の出版メディアはいつ普及するのか(1/2 ページ)

» 2011年02月16日 08時00分 公開
[猪口真,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:猪口真(いのぐち・まこと)

株式会社パトス代表取締役。


 電子書籍元年と叫ばれて久しいが、私の周囲を見渡しても、タブレット型端末をPC代わりに使っている人はいるが「電子書籍」を「読んで」いる人を見かけることはほとんどない。ハーバード・ビジネススクールのヤンミ・ムン教授が著書の中で言っているような、「Kindleのない生活は考えられない」という世界はいつになったら訪れるのだろう。まるで、何十年も先の話のようだ。

 現実にアマゾンは、「電子書籍事業が好調で、この四半期に第3世代Kindleが数百万台売れ、Kindle向け電子書籍の売り上げが、初めてペーパーバックの売り上げを超えた」と発表した。2010年7月に、Kindle向け電子書籍はハードカバー書籍の売り上げを超えたらしいが、今回のペーパーバック超えは予想を上回るペースだともいう。

 米国アマゾンの売り上げの中で、書籍がどの程度の割合かは明らかにされていないので推測にすぎないが、メディア部門も第3四半期は14%増だったこと、Kindle本体の売り上げ、世界での売り上げ比率や日本アマゾンでの書籍売り上げ、などから考えれば、隠れ電子書籍王国と呼ぶ人もいるグラビアやコミック類が中心の日本のガラケー向けコンテンツ(これを電子書籍と呼んでいいのかどうかも怪しいが)をはるかにしのぐ数字であることは間違いないだろう。

 一方、日本の出版業界は、相変わらず不景気な話題ばかりだ。

 出版科学研究所の発表によると、書籍・雑誌の2010年の推定販売額は前年比3.1%(608億円)減の1兆8748億円となるという。書籍が前年比3.3%減の8213億円、雑誌は同3.0%減の1兆535億円だった。

 また象徴的なのが、電子書籍に関するコメントだ。「将来的には電子書籍の売り上げを統計に加えていくことも考えている」と、アマゾンの画期的な発表とは違い、いかにものんびりとした雰囲気だ。

 日本でも、最近ではあるが、端末に関しては百花繚乱ばりにさまざまなデバイスが登場し、「新聞が読める」「雑誌が読める」「本が読める」と連呼し、そして必ずと言っていいほど、「どこと組んだ」とか「何々を配下に」といった形で、マーケットや流通までカバーしている。だが、「変わる」と言われ続けながらも、実際の一般ユーザーにおいては叫ばれているほどの変化はない。何が米国と違うのだろうか。

 アマゾンのジェフ・ベゾスCEOはかつて、「PCや携帯電話、PDAのようなネットワークツールが普及することで、情報の断片的な収集(情報のつまみぐい)に慣れてしまい、長時間集中して本を読まなくなってきている」といった主旨のことを語ったという。また、「Kindleによって、そうしたことからの脱却を図りたい」とも述べていたという。

 我々は、Kindleの成功とこのメッセージの意味をもっと深く考えなければならないだろう。「ググった」だけで、物事を理解したつもりになり、すべてを分かった風な口をきいたり、思考をやめてしまったりすることが増大してしまったビジネススタイルが定着した今、ベゾスのメッセージの意味は深い。

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