とある会社役員の、記者を操る方法相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年02月10日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先週の当コラムで、筆者は一般に馴染みの薄い“後追い”という言葉に触れた(関連記事)。競合他社がひしめくメディア界で、1社のスクープを他社が一斉に追随するのが後追いだ。ニュースバリューの高さから追随するという側面があるほか、1社だけネタを逃す“特オチ”の恐怖がメディア関係者の間に根強いことも、同じようなトーンの記事が溢れかえる一因だ。こうした記者、あるいは報道の習性を逆手にとる情報操作の手法がある。今回は特殊なスキルの一端をご紹介する。

ライバル社にリークせよ

 「これから独り言をつぶやきます。内容は本物です」――。

 10年ほど前、筆者が某大企業の企画担当役員と都内のバーで飲んでいたときのこと。乾杯のビールを飲み干した段で、この役員が冒頭のようなことを言い出し、面食らったことがあった。

 その後、この役員は、筆者を含めた他社の記者が追いかけていた同社の新戦略に関するネタをスラスラと語った。典型的なリークだった。あうんの呼吸で、筆者がメモ帳にペンを走らせたのは言うまでもない。

 一通り“独り言”を聞いたあと、筆者はトイレに立つフリをして携帯電話で同僚記者に連絡を入れた。裏取りしてくれた同僚の協力で、他社を出し抜く形で記事を出すことができた。その後、主要紙、テレビが一斉に後追いしたのは言うまでもない。

 閑話休題。

 数カ月後、この役員と再度酒席をともにする機会があった。この際、筆者はある疑問をぶつけた。この企業は通常、こうしたリークを特定の新聞社に回すケースが圧倒的に多かったのだ。つまり、なぜ筆者の古巣の通信社をリーク先に選んだのか尋ねたわけだ。

 これに対し、同役員はニコリともせずこう言い放った。

 「通信社だからあっという間に情報がメディア界に行き渡る」――。

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