“お世辞”パワーをあなどるな

» 2011年02月04日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 相手を説得するためには「頭で納得してもらう」ことと「心で納得してもらう」ことの両方が必要です。

 「頭で納得してもらう」というのは、セールスの場面なら、製品の品質や機能の良さや価格の妥当性を上手に説明して、「この製品は私のニーズを充足・解決してくれそうだ」と顧客に論理的に理解してもらうこと。この時、頭で納得してもらうためには、豊富で正確な商品知識や具体的なデータをもとに分かりやすく説明できることが肝要ですね。

 一方、「心で納得してもらう」というのは、同じくセールスの場面なら「この会社(人)なら大丈夫そう」と感情的に受容してもらうことです。つまり、心で納得してもらうためには、要するに、セールスパーソンに対する、見込み客の「好意」を高める必要があるのです。

 好意を高める方法にはいくつかありますが、1つは「類似点を見つけること」です。出身地や出身学校、好きな趣味など、見込み客と何らかの共通点を見つけることができれば、一気にお互いの距離感が近づきます。

お世辞は有効!?

 さて、好意を高める方法として、「お世辞」も非常にパワフルであることが最近の研究で明確になってきたようです。「お世辞」にはしばしば“根も葉もない”という形容詞が付くくらいなので、逆に反感を持たれそうに感じられます。

 しかし、そうではないのです。

 愛知県の大手自動車販売会社では、セールスマンごとの新車販売台数の成績と、顧客によるセールスマンに対する評価点との関係を調べてみました。その結果、さまざまな評価ポイントのうち、「お世辞がうまいかどうか」が、セールスパーソンの販売成績に一番大きい影響を与えていたのです。

 つまり、お世辞のうまいセールスパーソンほどたくさん売っていたというわけです。おそらく、お世辞によって、セールスパーソンに対する好意度がアップしたからでしょうね。同販社では、セールス研修メニューに「お世辞講座」を早速組み込んだとのこと。

 やみくもにお世辞を言えばいいわけではもちろんないでしょうし、販社の置かれた状況などによって、常にお世辞が最も有効ということではないようですが、「お世辞は好感度アップにつながり、結果的に、セールス増に効果がある」というのはある意味、目からウロコ的発見ですよね。

 まあ、1人の消費者として考えてみても、多少上滑りなお辞儀だと分かっていても、それなりに気分は良くなるもの。気分よくさせてくれる人だと、思わず財布のひももゆるくなるというのは実感として納得できます。セールスの場面に関わらず、家族や同僚、友人知人との交流においても、「お世辞パワー」を適切に活用したいものです。(松尾順)

※本文中の愛知県の自動車販売会社の事例は、日経MJの記事「成長へのみちしるべ」(2011年1月24日、2011年1月31日)から引用しました。

 →松尾順氏のバックナンバー

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