液体洗剤市場を奪えるか? P&G逆転の戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年02月01日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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マーケティングエクセレントなP&Gの戦略

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 「P&G史上初! “食べ物汚れをつきにくくする”コンパクト洗剤誕生『アリエールレボ イオンジェルコート』新発売〜汚れる前に、洗って防ぐ。今日からはじめよう、「予防洗い」!〜」 

 同製品も先行2商品と同様に「すすぎ1回」を訴求できる商品である。しかし、そこはメインの訴求ポイントとしていない。「衣類の表面をコートして、汚れをつきにくくする」という。

 リリースでは、「スパゲティソースやギョウザのたれなど、よくある食べ物の汚れに高い効果を発揮します」と、その効用が具体的だ。「『予防洗い』と洗浄力で、食べ物汚れに高い効果を発揮する。スパゲティートマトソースの場合(P&G実験結果)」と、コーティング効果によって普通の洗剤では落ちないトマトソースの汚れが、キレイさっぱり落ちている比較写真が掲載されている。

 ランチにパスタを食べに行き、ついついトマトソースを注文してしまう。そんな時に限って真っ白なシャツやブラウスを着ている。食べ終わった満足感を味わった次の瞬間、服に飛び散ったオレンジ色のポチポチを発見。そんな悲しい思いをしたことがある人なら、「これはいい!」とイチコロになりそうな訴求である。トマトソースの猛攻すら簡単に排除する鉄壁の防御が「アリエールレボ イオンジェルコート」で洗えば手に入るのだ。

 鉄壁の防御を手に入れられるのは消費者だけではない。「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&G自身にとっても鉄壁の防御として機能する。

 訴求の強さはともかく、「すすぎ1回」は3商品とも実現している。加えて、ライオンは「臭いの除去」、P&Gが「汚れ防止と食べ物汚れ除去」という付加価値を増している。とすると、シェアNo.1でリーダー企業の花王は、「アタックNeo」をリニューアルする際に、競合商品が持っている付加価値を取り込む可能性が考えられる。優れた研究開発力で同等の機能を実現し、強大な販売力で先行する商品を覆い被するようにチャネルの棚を席巻していく。リーダー企業の常套手段、「同質化」だ。

 しかし、「コーティング」「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&Gにはできるが、花王にはできない。技術的にできないのではない。

 白いシャツをトマトソースの飛沫で汚してしまったらどうするだろうか。ああ、早く汚れを落とさなきゃと、家に帰ったらそそくさと漂白剤に浸けるだろう。「コーティング」があれば、そうした手間は不要になる。普通に洗濯すればいいだけだ。とすると、トマトソースに限らず、ひどい汚れの場合でなければ漂白剤を使わなくなる。使用量が減る。異なるカテゴリーの自社商品同士がカニバリ(共食い)を起こしてしまうのである。

 花王には、ハイター、ワイドハイターという歴史を持つ漂白剤ブランドがある。ゆえに、花王は同様の機能を付加価値として取り込まない可能性が高いのである。では、P&Gはどうなのか。漂白剤を発売していないのだ。カニバリの懸念はない。

 リーダーの事業同士のカニバリ懸念を引き起こし、同質化を回避する戦略を「事業の共食い化」という。ジョンソン・エンド・ジョンソン社が奥歯までしっかり届く「リーチ歯ブラシ」を発売した。ヘッドが小さいため「奥まで届く」のである。それは消費者にとって虫歯を防げるという価値があるだけではない。競合であるライオンは歯磨き粉シェアナンバー1であるため、歯磨き粉の消費が減ってしまうため同様の歯ブラシを作れないという「事業の共食い化」を狙ったのである。

 「攻撃は最大の防御」というが、防御を固めることでリーダー企業の動きを封じるという手もある。固定観念にとらわれることなく柔軟な発想で戦い方を考えることが重要なのである。

※参考文献:『逆転の競争戦略』(生産性出版、山田英夫著)

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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