駅舎の外からボォォォッという音が聞こえてきた。釧路発11時09分、標茶着12時24分の『SL冬の湿原号』が到着するようだ。この列車が約1時間半後に折り返し釧路行きとなる。発車までまだ時間があるけれど、カメラを見せると駅員さんが改札を通してくれた。除雪されたホームを外れまで歩き、雪が盛られたところに登って到着を待った。先頭はC11形蒸気機関車、続いて茶色の客車が5両。最後尾になぜか貨物列車用の車掌車を連結している。
蒸気機関車は電車や電気機関車などと違い、前向き、後ろ向きがある。円筒状のボイラーがあるほうが前、運転室があるほうが後ろだ。だから蒸気機関車が往復する場合、転車台で向きを反転させる。ところが標茶駅には転車台がないので、帰りの釧路行きは機関車が逆向きで走る形になる。乗客としては、乗ってしまえば機関車がどっち向きだろうと見えないから気にならない。でも、前向き機関車の編成を撮りたいなら釧路発標茶行きを狙おう。標茶駅では到着後のわずかな時間がシャッターチャンスだ。
ただし、釧路駅には転車台があるので、運行期間中は何日か、機関車を逆向きにする日がある。これは「釧路行きの前向き編成を撮りたい」というSLファンへの粋なはからいなのかもしれない。
『SL冬の湿原号』は全車指定席だ。私の指定席券には2号車と記されていた。これはちょっとした幸運だ。なぜかというと、この列車の客車5両のうち、1、3、4、5号車の4両は14系といって、1970年代に製造された特急用客車。現役時代にはSLと連結する機会は少なく、ブルートレイン風の青い車体だった。それをSL列車に似合うようにレトロデザインにリフォームした車両だ。2号車のスハシ44形だけは1950年代に作られ、実際にSL列車とともに活躍した客車である。14系のほうが新しいから乗り心地も良さそうだけど、SL列車に乗るなら往時の客車、スハシ44形のほうが雰囲気がいい。
もっともこのスハシ44形も、製造当時のままではない。製造時はスハフ44形といって、車掌室のついた普通の客車だった。それをSLイベント列車用に改造している。スハシ44形という形式の意味は、スが車体の重量を示し、ハは普通車、シは食堂車である。当時の本格的な食堂車とは違い、スハシ44形は簡易キッチンつきの売店と飲食スペースが備え付けられている。それを食堂扱いにしているらしい。座席も生地が張り替えられて、当時のままではないようだ。つまり居住性はずいぶん改善されている。ちなみにスハフ44形のフは、手動ブレーキ付きという意味だ。
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