コラム
» 2011年01月31日 08時00分 UPDATE

ちきりんの“社会派”で行こう!:TwitterやFacebookで呼びかけ――アラブの政変は何に対する戦いなのか? (1/2)

TwitterやFacebookなどを起点とした民衆のデモにより、チュニジアの政権が倒れ、エジプトの政権も脅かされています。この民主化革命の動きにはどういった意味があるのか、そしてこうした事態を恐れているのは誰なのでしょうか?

[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2011年1月29日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 あちこちで大変なことが起こりつつあると感じます。すごいことが起こっています。

 まずは現在進行形のエジプト。ここのところ連日、数万人規模の反政府デモが起き、警察隊が催涙弾などで鎮圧にかかっています。デモ隊は30年近い独裁体制を敷いてきたムバラク大統領(なんと82歳!)の退陣を求めてます。

 大変なことが起こっている、というのは、このデモの背景にインターネット、そしてネット上のサービスであるTwitterとFacebookが大きな役割を果たしているからです。大規模デモはTwitterやFacebookを通じて呼びかけられたもので、真偽のほどは分かりませんが、エジプトでは現在インターネットへの接続が停止されたとの噂も流れています※。

※エジプトのデモについてのTwitterの動きはハッシュタグ「#Jan25」や「#Egypt」で追うことができる。Facebookでは「We are all Khaled Said」というグループで情報が交換されている。
ah_tikirin1.jpg Facebookのグループ「We are all Khaled Said」

 このエジプトの反政府デモに刺激を与えたのが、先日起こったチュニジアでの政変です。ここでも20数年独裁を続けてきたベンアリ前大統領(74)が実際に亡命に追い込まれました。この時の反政府デモでも、TwitterとFacebookを通じて長期独裁政権への不満感情が共有され、デモへの機運が高まりました※。インターネットやSNS無しには起こりえなかった政変だと言われています。

※チュニジアの政変についてのTwitterの動きはハッシュタグ「#Sidibouzid」で追うことができる。

 チュニジアでの政変の成功に影響を受けて、エジプトだけでなく、ヨルダンやイエメンにも反政府デモが飛び火しています。どこも長く独裁的に政権を握っているトップのいる国です。

 インターネットで、アラブ諸国に民主化革命が起こりつつあるのです。アラブの盟主とも言える大国エジプトで政変が成功すれば、1989年から1990年にかけて起こったベルリンの壁崩壊、そしてソビエト連邦の消滅にも匹敵する、パラダイム変革といえるでしょう。

 さて今、インターネットを活用したアラブでの反政府運動で、“倒されようとしている”のは誰でしょう? ムバラク大統領やベンアリ前大統領などの独裁者でしょうか?

 ちきりんは違うと思っています。

 これらの独裁者が民主的な手続き(選挙など)も踏まず、数十年も政権を維持できたのはなぜでしょう? それは欧米が彼らを後押ししてきたからです。そして、欧米が彼らをバックアップしてきたのは、彼らが欧米に従順な政権であったからです。

 欧米は、その現地政権が自分たちに従順である限り、たとえ民主的でなくても、宗教的でさえあり独裁的であっても、彼らを支援してきました。反対に自分たちに従順でない政権に対しては、遠慮無く反政府勢力を支援して政情を不安定化させ、もしくは直接的に爆弾を落として独裁政権を倒してきたのです。

 ムバラク大統領など親欧米政権は、「イスラエルに刃向かわない」「欧米と敵対するイラクやイランと仲良くしない」などの欧米からの要請をすべてのみ、素直に従ってきました。イラクやイランを攻撃するための米軍の駐留さえ許してきました。だから欧米は、この独裁政権を支持してきていたのです。

 ひと言で言えば、ムバラク政権を支持していたのは、エジプト国民ではなく“米国の政権”でした。今、デモによって打ち砕かれようとしているのは、その“米国政府の意思”なのです(余談ですが、今回の動きを“政変”とか“反政府デモ”と呼び、決して“民主化デモ”とも“革命”とも呼ばない日本のマスコミも、日本政府の立場をきちんと踏まえて報道していると言えるでしょう)。

 現在、これらの政権はインターネットを利用した民主化デモにより倒されようとしています。こうなると欧米もあからさまに独裁者側の支援はできません。あれだけ人権だの民主化だの言ってきた手前、反政府デモ側を支援せざるを得ません。

 しかし、反政府デモによる政変が成功し、新たに政権をとるリーダーが、今までと同様に欧米に従順だという保証はありません。そもそもアラブ地域に「親イスラエル政権」が数多く存在していること自体が不可思議なことだったのです。民主的な手続きでリーダーが選ばれれば、アラブ諸国では「反イスラエル」政権が樹立されるのがごく自然です。

 欧米諸国はこれに先立ち、ウィキリークスの挑戦も受けています。彼らが明らかにしようとしているのは「大量破壊兵器がある」という眉唾な情報に基づいて、石油のために世界中からイラクに軍隊を派遣するような先進国の“帝国主義的・覇権主義的な横暴”の舞台裏です。

 欧米は、アラブを始めとする世界諸国において、「欧米に従順な政権であれば、独裁政権でも支持」し、「欧米に刃向かう政権であれば、いちゃもんをつけて爆弾を落とす」という態度を貫いてきました。

 それが今、前者が「TwitterとFacebookを利用した反政府デモ」によって、後者が「ウィキリークスによる舞台裏情報の開示」によって脅かされようとしています。問われているのは、ムバラク大統領らの独裁体制ではありません。世界を牛耳ってきた“欧米レジームの世界体制”そのものなのです。

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