人間関係をデジタル化する――ソーシャルグラフから始まるFacebookの戦略野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/2 ページ)

» 2011年01月25日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ソーシャルグラフによる新しい競争

 元のサイトから切り離され、モジュール(交換可能な構成部分)として流通可能になったソーシャルグラフは、それ自体がビジネスの取引対象になる。魅力的なソーシャルグラフを持つWebサイトは、それをリソースとした新たなビジネスも展開可能だ。

 ソーシャルグラフとゲームが合わさってソーシャルゲームの大きな市場ができたように、次に狙うのはEC(電子商取引)との融合である。Facebookは、音楽、書籍、レストラン、食品などあらゆるネット上の商品の好みを示すリストを、提携するオンラインストアとの間で作ろうとしている。ネットにおいてECがカバーする領域は、ゲームよりもさらに広大だ。こうしてネット全域の情報流通が、ソーシャルグラフを中心に書き換えられれば、Facebookはとてつもない力を持つことになる。

 現在でもサイトに「Like」ボタンを入れれば口コミ効果を得られるが、おそらく終点はそこにはない。従来のオンラインゲームとは異なるソーシャルゲームという新しいジャンルができたように、オンラインショッピングのあり方が大きく変容するだろう。そのとき、Zyngaに匹敵するような、ソーシャルコマースの巨大新興企業はできるのだろうか。

 ただし、実務上考えなければならないこともまだ多い。「商品購買行動と親和性のあるソーシャルグラフは何か」と考え、それらを有機的に結びつける方法を考えねばならない。

 ソーシャルゲームであっても、友人をインバイト(招待)する仕組みだけで成功したわけではなく、ゲームシステムとソーシャルグラフを有機的に結びつける方法を試行錯誤したからこそ、今日の繁栄がある。

 購買行動とソーシャルグラフとの接点をめぐって、ソーシャルグラフの進化も要求される。今後は、ソーシャルグラフがどのような環境でどのような目的をもって形成されたものか、人間関係の質的な部分も無視できなくなるだろう。

 日本では人間関係の発端がリアルかバーチャルかという二項対立で論じられるが、属性情報をどう扱うかという広範な議論が必要だ。そして、米国の実名制の社交に対して、日本のソーシャルグラフの特性も考えていきたい。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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