コラム
» 2011年01月25日 08時00分 UPDATE

野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン:人間関係をデジタル化する――ソーシャルグラフから始まるFacebookの戦略 (1/2)

映画『ソーシャル・ネットワーク』の日本での上映が始まったが、Facebookにこれほどの期待が寄せられるのはなぜか。今、SNSサイトの枠をこえて、ネット全域の情報流通を掌握しようする新しい戦略が始まっている。その戦略の骨子となるソーシャルグラフについて考える。

[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


ah_nozi1.jpg 『ソーシャル・ネットワーク』

 1月15日、世界最大SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のFacebookの創業を描いた『ソーシャル・ネットワーク』の日本上映が始まった。当初のFacebookは、ビジネス向けに周到に作られたわけではないようだ。大学生の「人から認められたい」「異性にもてたい」というシンプルな願望を背景に、創業物語は進んでいく。

 米国の各大学には学生の社交クラブがあり、なかでも歴史のあるクラブは家柄や資産まで審査対象となる排他的で特権的なところだ。日本の大学のいわゆる“選抜”のあるサークルよりはるかに厳格そうだ。名門クラブに入れるのは数%の学生だけで、残る学生は社交の外から羨望(せんぼう)の目を向けるしかない。そこに、あらゆる大学生活の社交がそっくり表現されたWebサイトができたら、どんなに楽しいだろう。かくしてFacebookは、大学生のための社交サイトとして始まった。

 日本のSNSユーザーは日々の出来事を共有する仲間意識が強いようにみえるが、米国の社交サイトとしてのSNSはそれとは趣が異なる。社交は、よりパブリックで外向きの顔で行う交流である。Facebookを理解するには、米国の階級社会と社交という文脈を考えなければならないだろう。

人間関係をデジタル化するソーシャルグラフ

 SNSの骨子となるのが、人と人との関係性の相関を表すソーシャルグラフである。ソーシャルグラフとは平たくいうと、誰と誰がフレンド登録しているかを示すものだ。

 関係性を表すにはグラフを用いるとよい。最も単純なグラフは、人を点で、関係性を線で表し、関係が有れば点同士を線で結んだものになる(下図参照)。つまり、人間関係は、有り(1)と無し(0)だけで表したデジタルデータになる。 

ah_nozi2.jpg

 もちろん、人間関係には色々とあり、関係性の強さや種類がある。例えば私のフレンドリストには、研究者の同僚から仕事上の知人、趣味の友達、中学の同級生までさまざまな人間関係がある。よく会う人もいれば、20年来会っていない人もいる。

 それをあえて単純化することに、ソーシャルグラフの意味がある。

 第一に、個々の人や関係を単純化することで、ネットワーク全体を俯瞰(ふかん)することが可能となる。社会ネットワーク分析という研究領域では、密度の濃さや集中度といったネットワークの構造的な特徴が分析対象となり、専用のソフトを使って解析が行われる。例えば、ネットワーク構造から、口コミが波及していく様子について調べることができる。

 第二に、フレンド登録の有無という単純なデータにすることで、情報量を圧縮し、人間関係を可視化することができる。そして、音楽や動画がデジタルデータとなって、その移動と複製が極めて容易になったように、人間関係もネット上で流通可能なデータとなる。

 これまでネットの人間関係は、掲示板や日記が掲載された特定のサイトに形成されると考えられ、それをユーザー・コミュニティと呼んだ。ユーザーたちが交わす言葉が表示され、アクセスが集中する“場”が尊重された。“場”は物理的なURLというスペースを指すだけでなく、ユーザーの愛着や帰属意識といった目に見えないアナログ的な要素を含めた概念であった。

 しかし、人間関係をデジタルデータに集約できるのならば、コミュニティが生成されたWebサイト(URL)から離れ、外部サイトにデータとして転用することができる。

 Facebookのオープングラフ構想は、まさにソーシャルグラフを外部サイトに転用するビジネスである(参照リンク:「Facebook’s Open Graph Personalizes the Web」)。Facebookの「Like(いいね!)」ボタンが搭載された提携サイトであれば、初めて訪れるオンラインストアでも、友達が過去にそこで何を買ったのか、おススメ商品が何であるかを知ることができる。フレンドリストをAPIとしてゲームプログラムに組み込むソーシャルゲームも、外部コンテンツプロバイダーにソーシャルグラフを開放した好例である。

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