日本の借金1000兆円はどう返済すればいいのか?――ジャック・アタリ氏の処方箋郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2011年01月20日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷好文(ごうよしふみ)

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。他の連載は印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」、メルマガ「ビジスパ」で「ことばのデザイナーのマーケティングレシピ」。中小企業診断士。アンサー・コンサルティングLLPパートナー。ブログ「マーケティング・ブレイン」(コンサル業)、「cotoba」(執筆業)。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go


 1000兆円の債務、と聞いても巨額過ぎてピンと来ないかもしれない。それは国債という国民の借金と長期短期の政府借入金の合計870兆円、そして地方政府の債務169兆円、そして社会保障基金3兆円を合わせた1042兆円のこと。それがつまり日本国民が背負っている借金総額である(2010年9月時点)。

 その金額は日本のGDP(国内総生産)――つまり経済成長によって生み出される額である約500兆円の2倍を超える水準となった。簡単に言えば、日本全体で稼いだお金の2倍の借金を背負っているということである。財政赤字で大統領の支持率が低下する米国や、慢性的に財政状態の悪いイタリアの水準をはるかに上回っている。

 国家予算92兆円(2010年度)の10倍以上の借金。それは過去のデフォルト(債務放棄)国家の平均水準を軽く超えている。1998年のロシアで5倍、2001年のアルゼンチンでも2.6倍だったのだ。フランスの知性と言われるジャック・アタリ氏はこう言う。

 「2500年にわたる過去の歴史から、これほどの公的債務を抱えて悲惨な運命をたどらなかった国はない」

公的債務のGDP比(出典:財務省統計)

悲惨な運命へ

 2011年1月14日、1年4カ月ぶりに来日したジャック・アタリ氏。37歳でミッテラン政権の大統領補佐官となり、2007年よりサルコジ大統領の諮問委員会「アタリ政策委員会」の委員長を務める。先のEU大統領選挙ではフランス側の最有力候補ともなり、フランスの政財界を動かす知性と言われる。

ジャック・アタリ氏

 今回の来日ではフランスから到着早々、大前研一氏と対談をこなし、ユニクロの柳井正会長、楽天の三木谷浩史社長との対談も予定されている。1月15日には就任直後の海江田万里経産大臣との講演もこなし、さらに鳩山由紀夫前首相との会談もあるようだ。

 日本でも人気のアタリ氏だが、日本のについてどのように考えているのだろうか。海江田万里経産大臣と行った記者会見でアタリ氏が語った主張をまとめてみよう。

 「公的債務の増加により、国の信用力が低下します。それが金利上昇を招き、国債の価格が下落。日本国債を大量に抱える金融機関は莫大な損失を被り、次々に破たんします。不況が深まり、生活水準が悪化し、購買力は落ちる。企業業績も悪化する……やがて日本という社会、民主主義が崩壊しかねません」

 アタリ氏は単に目下の現象だけをとらえて言っていない。自著『国家債務危機』(作品社刊)では、公的債務という概念の発生を紀元前5世紀のスパルタとアテナイの戦争に端を発するとした。戦争で弱体化した両国が、資金調達のため宗教団体との融資契約を交わした。その公的債務の膨張が古代ギリシャの都市国家を衰退させ、ローマ時代をもたらした。

 ローマ時代には商人から“無金利の貸し付け”という公的債務が生まれ、その後ユダヤ人は金利付きで国に金を貸し出した。だが、欧州の中世の国々では「君主の死=債権の消滅」であった。つまり借金は一代限りということだ。施政者が変わっても借金が続く、今の法治国家の仕組みは、19世紀の産業革命以降、つまり経済成長という概念とともに生まれた。

 会見でアタリ氏は「米国とは公的債務の返済で生まれた国。各州の債務を何とかするために連邦が生まれた」と語っていた。そのため米国は建国以来200年、債務ゼロになった年はたった2年間しかない(1835〜36年)。今に続く財政問題、茶番というか楽天的というか。

麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏、そして菅直人氏と3代続けて首相がジャック・アタリ氏の本を購入。債務総額は計算により900〜1000兆円のばらつきがある
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