「釣女」「釣りガール」は本当に流行るのか!?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年01月19日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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釣女普及のカギを握るのは……

 さて、そろそろ「釣女」「釣りガール」が本当に流行るのかを考えてみよう。

 マーケティングの4Pで考えれば、製品(Product)は従来にない、女性受けするものが作られた。販売チャネル(Place)も子会社を使って積極的な展開を行っている。「釣女」関連の広告・広報・販促(Promotion)は、日経関連に続き、産経、朝日新聞など一般紙でも大きく取り上げられるなど、話題作りに成功している。価格(Price)は前述の通り、アジア勢に価格勝負をするのではなく、「高価値戦略」を取ることになる。それが受け入れられるかがキモであるともいえるだろう。

 多くの女性にとって釣りは「生き物を相手にする」というという意味では、ランニングや登山以上に未知なる体験、イノベーションである。そこで、E.M.ロジャースの「イノベーション普及論」の普及要件で検証してみたい。

1.相対優位性

 今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。今までの趣味との比較となるが、未知なる体験で楽しさを知れば優位性が理解できるだろう。

2.両立性

 当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。今までの趣味との両立ということになるが、釣りは現地に行って時間をかけて獲物を手に入れるので、それなりに時間がかかる。無尽蔵に時間を持っている人はいないため、何らかの趣味とトレードオフの関係になるだろう。釣りの魅力が勝るかがカギだ。

3.複雑性

 理解できないほどの複雑性を持っていないことと、逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であるというバランス。未体験の女性からは、「釣りって難しそう」という意見も多い。その壁を越えることも欠かせない。

4.試行可能性

 本格的な導入の前に自ら触って効果を認識できること。上記の1〜3の要件でも、まず「試す」ことが欠かせないことが分かる。また、一般に「釣れない釣りほど楽しくないものはない」ともいう。お試しで成功体験を得ることが必要だ。この要件が最もハードルが高いといえるだろう。

5.観察可能性

 目に見えない効果ではなく、効果が観察・実感できること。「魚が釣れなくとも自然に触れるだけで釣りは楽しい」という人もいる。しかし、やはり獲物を手にするという実感は大切だ。それが観察可能性に該当するだろう。やはり、どうやって成功体験を得るかにかかっている。

流行するためのキーパーソンとは

 普及要件から考えれば、誰か「教えてくれる人」の存在が欠かせないことが見えてくる。

 日経ウーマンオンラインでは、2010年12月から「初心者のための『釣りガール』入門」という連載を始めている。そこでは編集部の女性2名に、男性ライターが指南役となっている。

 DMU(Decision Making Unit=購買決定関与者)という。何らかのモノやサービスの購入に際して、ターゲットに関わってくる人のことである。この場合は、初心者である彼女らに成功体験を与えてくれる人ということになる。

 では、DMUは誰なのか。「彼氏」か? 確かにグローブライドは上記の通り、若年層に人気のアパレルブランドとコラボして取り込みを図っている。「A BATHING APE」は男子にも大人気だ。しかし、彼氏も初心者であれば、初心者同士で「成功体験」を得られるかは、ちょっと危なっかしい。女子ゴルフブームの時には、彼女らにやたらと指導をしたがるオジサマたちがいた。しかし、釣り人は孤独だ。一人で海や川、魚と戦っている。釣り場は「釣りバカ日誌」的な光景ばかりではない。と、考えると、意外にDMUを誰に設定し、どう働きかけるのか、難しいのである。

 浄瑠璃の常磐津には「釣女」という演目がある。独身の大名と太郎冠者(従者)が、嫁が欲しいと恵比寿様に詣でたら、釣り竿を授けられた。大名がそれを使ってみると、世にもまれな美女が釣れ、仲むつまじくなることができた。太郎冠者が焦って自分も釣り糸を垂れると、同じく女性が釣れた。末永く添い遂げることを誓ってから顔を見ると、二目と見られぬ醜女であった……という話。

 「釣女ブーム」が本当に流行るためには、まず、釣り上げるべくは女性ではなく、「成功体験をさせてくれる指南役」だ。その必要要件は、美醜などではなく、「下手くそ」ではないこと。太郎冠者のように焦って、「二目と見られぬ」ではなく、女性が「二度とやりたくない」と思うような結果になってしまったら、ブームの火はあっという間に消えてしまうことになる。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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