韓国で扱っていないのに!? なぜジンロは日本でマッコリを売り出したのか

» 2011年01月19日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 2010年に急に市場に出回るようになり注目を浴びたお酒が、韓国のお酒「マッコリ」ですね。見た目はカルピスみたいな感じ。甘くて、軽い酸味のあるマッコリは、ヨーグルトドリンクのようでとても飲みやすいです。

 従来は店頭でほとんど見かけることがなく、韓国料理店でしか飲めませんでしたよね。今は手軽に買えるようになったので、私も時々楽しんでいます。

 日経ビジネス(2011年1月3日)の記事によると、マッコリの市場規模はこれまで73万ケース(1ケース=8.4リットル)だったそうです。ところが、2009年12月に眞露ジャパンが、新規に参入したことで市場規模は一気に2倍にふくらむ見込みということです。

実はマッコリを扱っていなかったジンロ

 眞露(以下、ジンロ)と言えば、韓国のお酒メーカーで「焼酎」が思い浮かびますね。今回、マッコリ市場に「新規参入」したと聞いた人の中には、「ジンロではマッコリを取り扱ってなかったの?」と逆に驚いた人も多いのではないでしょうか?

 実際、ジンロは本国韓国でも、マッコリを製造・販売したことはありませんでした。その理由は、韓国では、多くの中小メーカーがマッコリを作っており、競合を避けていたからとのこと。

 ところが、日本で「マッコリ」についての消費者のイメージ調査をやってみたら、なぜだか、「ジンロ」の名前が挙がったのだそうです。一般消費者は、それほど韓国のお酒や、メーカーについて詳しい知識がありません。ですから、「ジンロ→韓国→マッコリ」といったイメージ連鎖から、ジンロとマッコリの擬似的な結び付きが形成されていたのでしょう。

 ジンロとしては、このイメージを生かして、これまで製造、販売したことのないマッコリを日本で展開することにしたというわけです。日本のマッコリ市場がまだ小さく、有力なライバルが存在しないということも考慮されたのでしょう。

 ジンロはお酒メーカーですから、同じお酒のマッコリへのブランド拡張は、同一カテゴリーの中での横展開です。ですから、元来、成功しやすい取り組みではあるのですが、消費者が持っていた「架空のブランドイメージ」をうまく活用したという点が大変興味深いというか、珍しい事例だと思います。

 なお、マッコリは韓国では「男性労働者のお酒」というイメージが強いのだそうです。しかし、日本におけるマッコリのイメージは、韓国のお酒ということ以外はほぼ白紙。

 そこでジンロでは、乳酸菌が入っていて健康的なイメージ、口当たりもよく、カロリーも低い、アルコール度数も6%程度という特徴が、女性に向いていることから、女性をターゲットにしたコミュニケーションを展開しています。このコミュニケーション戦略も、マッコリ市場急拡大のポイントだったと言えそうです。(松尾順)

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