夏野剛×中村伊知哉、『ソーシャル・ネットワーク』をサカナに日本企業の体質を語る(6/7 ページ)

» 2011年01月18日 13時21分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

テレコミュニケーションのジレンマ

会場 リアルとかネット、ソーシャルっていう、今後のコミュニケーションのあり方ってどうなるんでしょうか?

中村 でっかいこと聞きますね。

夏野 みなさんの携帯電話の発信履歴と着信履歴とメールをみてもらうと、意外とリアルで会っていることが多い人からのメールが一番多かったり、あるいは発信履歴や着信履歴が多かったり、と思うんです。

 僕は「テレコミュニケーションのジレンマ」って呼んでますけど、テレですから「遠いところ」っていう意味ですよね。遠くにいる人とコミュニケーションするためのツールとして使っているといわれているはずなんですけど、実際には一緒に住んでいる彼女とか彼氏、ダンナ……あ、ダンナはないな、奥さんとかとコミュニケーションすることが爆発的に増えていますよね。

 つまり、リアルな人間関係があって、バーチャルな人間関係もあって、大部分は重なっている。Facebookのような実名制のSNSでは、その両方とも重なっている。人間ってそんなに行動パターンは変わっていないのだけれども、どんどんコミュニケーションのやり方だけは変わっている。これは良いことだと思うし、そんなに気にすることない。

 匿名性を利用して犯罪っぽいことが起きているのは良くないことだと思いますが、新しいテクノロジーがでてくると負の側面を突くヤツらは必ずいるものです。そういうヤツらをいかに排除していくかというのは、リアル社会が新しいテクノロジーに置き換わっていくというプロセスの中でうまくやっていきますので、僕は楽観的にみています。

 人間が潜在的にもっている「この人とコミュニケーションしたい」という思いが、すぐに叶うという時代になっていくんだろうな、と思っています。これは人間にとってすごくハッピーなことなんだけど、きちんと社会として適応していかなくちゃいけない。

生産者側から消費者側へのパワーシフトが起きている

ソーシャル・ネットワーク 中村伊知哉氏

中村 ネットやケータイが本格的に普及したのはここ15年です。それまでリアルな社会でできていたことがほとんどネットでできるようになりました。これから10年くらいかけて、逆のことが起きるんじゃないかと思っています。

 バーチャルな空間で行われていたコミュニティや関係性というものが、リアルな世界に貼り付いていく。コンピュータやモバイル機器といったものが消えていって、全部がこういう空間でつながるようになる。

 そうすると、「ひょっとするとこういうテクノロジーとか新しいビジネスが起こるんじゃないかな」と思うことは、全部起こる。例えば、これまでにも生産者側、流通側から消費者側へのパワーシフトが起きた。ザッカーバーグは1人の学生でした。消費者側、ユーザー側の彼が新しい世界を作った。

 また、便利になっていく中で、要らないものはどんどん消えていく。CDショップが消えていっているけれども、こういうダイナミックな変化がもっと起こると思う。電子商取引が広がってきて、いま、市場は1兆8000億円くらいなんですけど、小売などのリアルな商売って135兆円くらいある。まだ、2%しかデジタル化していないのだから、残り98%のデジタル化もどんどん進んでいくでしょうね。

 一方で、楽しいことが増えていくけれども、困ったこともどんどん増えてくる。それをどう解決するかというのは僕らではなく、みなさんの空想力で、空想したものをどんどん実現して、というスピード感が求められると思います。

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