菅総理に贈る言葉――「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年12月27日 08時37分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 一方で国内市場については、金融をこれだけ緩和しつづけても、需要は依然としてあまり増えてくれない。減税や補助金などで自動車や一部家電製品は後押しされたとはいえ、自動車は明らかに失速している(本来から言えば、景気が持ち直すきっかけにする補助金だったのだから、打ち切ったのは時期尚早だったと思う)。2011年度の成長率見通しは1%台だが、米国の回復が思ったほどではなく、中国が一服するようであれば、限りなくゼロ成長に近づく懸念も残っている。

法人所得課税の実効税率の国際比較(2010年1月現在、出典:財務省)

菅政権のブレーン・小野善康氏の主張

 それを防ぐために、とにかく「雇用」を増やしたいというのが菅首相の気持ちであることはよく理解できる。しかし大阪大学フェローで菅政権の経済政策のブレーンである小野善康氏の主張にはちょっと驚いた。法人税の減税について「恩恵受けるなら雇用つくれ」と書いている(朝日新聞2010年12月22日付)。

 「日本に踏みとどまる企業は、国民の負担増のもとで減税の恩恵を受けるのだから(中略)日本の消費者に夢や楽しみを与える商品を開発し、内需を刺激する義務があろう。(中略)それができないなら、法人税減税で免れた税金を政府に返上し、そのお金で、政府が国民が必要としている分野の雇用をつくる方がよい」

 いちばん奇妙なのは「法人税減税」を政府が企業に与える「恩恵」と言っている点だ。法人税をなぜ減税せざるをえなかったのか。それは日本の実効法人税率が世界水準から見て高い(高くないと主張する人もいるが)からである。税金が高ければ企業も裕福な個人もその国から逃げたり、財産だけでも海外に移したりする。これはどこの国でも起こっていることだ。だから法人税を下げざるをえなかった。それに「恩恵」とは政府が法人や個人に対して「施し」をしているということだろうか。だいたい政府とは、国家を統治するために国民が税金で支えているのであって、政府そのものが自律的に存在しているわけではない。

 法人税を減税してやるから雇用を増やせという言い方は、個人の所得税をまけてやるからその分は消費せよという言い方にも似て、とんでもない筋違いの議論である。「浮いたカネ」を企業や個人が何に使うかは政府が決めるような筋合いのものではあるまい(補助金などで「誘導」するのは理解できるが)。

 もう1つ、小野氏の議論で気になるのは、内需を刺激するようないい商品を作れないのなら、減税分を「政府に返納し、政府がそれで雇用をつくる」としている部分である。経済は資源(ヒト、モノ、カネ)を配分し、それによってモノやサービスを生産することだ。そしてその資源配分は基本的には市場に任せるのが最も効率的であることは歴史的に証明されていることだと思う。政府が資源配分に関与しすぎることがかえって経済の停滞を招くことは、旧ソ連、中国、インドを考えてみても明らかだと思う。

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