2011年は「大変化の年」!? 携帯3キャリアのスマートフォン戦略を読み解く(後編)神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2010年12月22日 12時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 その日の孫正義社長は“らしく”なかった。

Photo “iPhoneの補完”としてのAndroid端末を発表するソフトバンクモバイルの孫正義社長

 11月4日、ソフトバンクモバイルが2010年冬から2011年春にかけて投入するスマートフォンとケータイの最新ラインアップ24機種を発表した。そのうちスマートフォンは6機種。(その当時)最新のAndroid 2.2を採用しており、「すべての機種で最新のAndroidが使えるのはソフトバンクモバイル」(孫氏)と打ち出した。しかし、その一方で、記者会見の冒頭からiPhoneの話題ばかりを持ち出し、今回の主役であるはずの最新のAndroid端末の発表ではいつもの“歯切れのよさ”があまり見られなかったのも事実だ。

 今や大人気モデルとなったAppleの「iPhone 4」。これを擁するソフトバンクモバイルのスマートフォン戦略はどのようなものなのか。後編ではそこにフォーカスしてみたい。

「iPhone補完」をするソフトバンクのAndroid戦略

 「iPhoneのシェアは8割。最近では女性ユーザーの購入比率が4割に達して、(販売の)勢いが増している。一方、Androidのシェアはたった2割しかない」

Photo ソフトバンクモバイルのAndroidスマートフォンは全6機種。上段左からHTC製の「HTC Desire HD」、シャープ製の「GALAPAGOS 003SH」、ZTE製の「Libero 003Z」、Huawei製の「004HW」。下段左はシャープの「005SH」、下段右はデルの「DELL Streak 001DL」

 記者会見の冒頭、ソフトバンクモバイルの孫正義社長は、目下のマーケットをそう評価した。最近ではAndroid搭載スマートフォンが注目されることが増えたものの、店頭競争力ではiPhone 4の圧倒的優位が揺らいでいないのは現実だ。とりわけiPhoneが女性層の支持を受けていることは大きく、iPhoneのイメージ向上と一般ユーザー層への広がりを後押ししている。この人気モデルを擁するソフトバンクが「これからも全力で、最重点製品として、iPhoneを売り続ける」(孫氏)というのは、販売戦略としては間違っていない。すると自ずから、同社のAndroid戦略は一般コンシューマー市場でのiPhone躍進に水を差さず、iPhoneに足りない部分を「補完」するものになる。そして、“残り2割のスマートフォン市場”で成長し、iPhoneに対抗しようとする他キャリアに対する布石としても重要な役割を担う。

 だが、これは今回のAndroid搭載スマートフォンが、一般コンシューマーに向けた「主流市場の本命モデルではない」ことも意味する。ドコモやKDDIのAndroid搭載スマートフォンは、冬商戦でハイエンド層のニーズを獲得しつつ、狙いは“2011年の春商戦”に置いている。ともすれば、ここで一般ユーザー層が大きくスマートフォンに動く可能性があるからだ。その獲得もにらんで冬春商戦のAndroidラインアップを構築しているのである。

 しかし、ソフトバンクモバイルは、来春商戦もあくまで主力商品は「AppleのiPhone 4」だ。iPhoneの人気とブランド力は依然として高く、iPhoneの訴求を続けることが現時点で賢明な選択であることを同社は熟知している。誤解を恐れずにいえば、今回のAndroidラインアップはすべてiPhoneの周りを固める脇役であり、将来に向けた捨て石なのだ。

 むろん、これはソフトバンクモバイルの戦略として間違っていない。だが、新製品を華々しく披露する発表会において、“iPhone補完の脇役”を強く訴求するのは、いささか無理があった。いつもは闊達かつ力強く新製品・新サービスの魅力を語る孫社長が、今回に限って歯切れが悪かったのは、そうした背景が影響していたからだろう。

今回のAndroidは「ハイエンド」に特化する

 では、ソフトバンクモバイルのAndroidラインアップは魅力に乏しいのか、というとそんなことはない。ハイエンドユーザーにとっては、むしろ逆だろう。

 前述のとおり、同社はAndroid搭載スマートフォンを「iPhone補完」に位置づけている。そこでAndroid端末が狙うべき領域が、ハイエンド市場に絞られたのだ。

 このわかりやすい例が、「全機種Android 2.2搭載」と「キャリアとしての作り込みを行わない」という方針に現れている。

 ドコモやKDDIのAndroid端末では、一般ユーザーにも使いやすいようにキャリアとメーカーが共同でさまざまな作り込みを行ったため開発期間が長くなり、結果としてほとんどのモデルが発売時にAndroid 2.2を採用することができなかった。この冬商戦にAndroid 2.2が間に合ったのは、ドコモの「Galaxy S」だけだ。両社はハイエンドユーザー層“だけ”をターゲットにしていないので、Androidの最新バージョン搭載よりもキャリアによる作り込みを重視したのだ。

 それに対して、ソフトバンクモバイルは“最新バージョンのAndroidを搭載する”ことにこだわった。キャリアとしてUIやサービスの作り込みをほとんど行わず、その代わり、多くのハイエンドユーザーが重視する「最新のAndroidスマートフォン」を求めたのだ。またハイエンドユーザーが好む基本性能の高さや、おサイフケータイ搭載といった点も加味した。シャープ製の「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」やデルの「DELL Streak 001DL」、HTC製の「HTC Desire HD 001HT」などはそれがよく現れている。その一方で、法人市場やスマートフォンの2台持ち需要に対しては、ZTE製の「Libero 003Z」、Huawei製の「004HW」など海外メーカーのエントリーモデルを用意。こちらもキャリア独自の作り込みをほとんど行わず、“すっぴんのAndroid”をよしとすることで、低コスト化と最新Androidの搭載を実現している。

 このようにソフトバンクモバイルのスマートフォン戦略は、「iPhone」と「iPhone以外」を明確に区別し、後者をハイエンド需要や、おサイフケータイなど国内ニーズへの対応用と割り切ることですみ分けをしている。ハイエンドなAndroid搭載スマートフォンを求める層は、キャリアのカスタマイズを好まず、それよりも最新のOSや機能を求める傾向が強い。孫社長が「キャリアによる作り込みなどナンセンス。そんなことをしたら開発に時間がかかるし、後々のOSバージョンアップもしにくくなる」(孫社長)とキャリアによるカスタマイズを批判したことも、同社のAndroid搭載スマートフォンの位置づけを鑑みれば、当然なのである。

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