ユーザーがお金を払いやすくなる仕掛け――アイテム課金が優れている理由野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/3 ページ)

» 2010年12月21日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 マネタイズ(Monetize)とは、大まかに言うと、何かを金銭に変えることであり、特にネットのコンテンツ・サービスの収益化を指す。広告・アフィリエイト・ユーザー課金など具体的な方法は問わない。

 どんなビジネスでも、収益化の道を考えるのは当たり前のことだ。それがなぜ、マネタイズという言葉をわざわざ使うのか。同じネットビジネスでもネット通販では、マネタイズとは言わない。割高なのか割安なのかは置いておいて、商品には必ず値札がついている。商品を渡せば、売り手は必ず代金をもらうことになる。

 ところがコンテンツ・サービスの場合、無料提供が多く、たとえ良いものを提供しても受益者から対価を得ることが難しい。顧客を満足させることと収益をあげることとが、必ずしも対応しないのである。そこで、収益化のための方法を別途考えなければならない。

欲を生み出すモデル

 以前に紹介したソーシャルゲームの特徴は、「欲を生み出すこと」「無料と有料の違いを演出すること」であった。

 ソーシャルゲームでは、仮想アイテムを有料販売するアイテム課金が広く採用されている。仮想アイテムというと、「実体がなく製造費用がほとんどかからないのに、飛ぶように売れる」という楽観的な誤解を受けることもある。しかし、実体がないものを売るからこそ、今までの常識とは異なるマネタイズ理論が必要なのである。

 販売対象の仮想アイテムそれ自体を論じても、なぜそれが売れるのか分からないだろう。別のゲームの仮想アイテムが半額だからといって、今のゲームをやめて移るかというと、そういう話にはならない。誰も、最初から仮想アイテムが欲しくてゲームを始めることはない。バーチャル高級肥料が欲しくて、農園アプリを始める人はいないのである。

 仮想アイテムは、そのゲームをプレイしているからこそ“使用価値”がある。つまり、プレイしていくうちに欲が生まれるのである。そこで、ゲーム自体は無料で提供しながら、同時にユーザーの欲を生み出す仕組みを、ゲーム設計と運営全体を通して作り上げる。欲と言うと聞こえが悪いかもしれないが、「意味」「欲」「価格」「納得感」を適切に配置することで、娯楽サービスとして顧客を満足させることができる。そのための助走と考えるならば、無料サービスはもはや無駄骨ではなく、マネタイズのための重要な仕掛けとなる(「何もないところに欲を作り出す――『ブラウザ三国志』のビジネスモデル」)。

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