今のニホンに最も必要なもの藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年12月20日 08時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 先日、ある外国誌東京支局長の話を聞く機会があった。彼は最後にこう締めくくった。「今の日本に最も必要なものは、政治的なリーダーシップだ」

 2009年夏、民主党政権が成立して以来、リーダーシップという言葉はまるで“流行語”のようである。もともと民主党が言っていた「政治主導」とは、まさに政治家のリーダーシップそのものだったはずだ。国民の負託を受けた政治家が、官僚組織を動かして政治を行うことこそ、民主党政権が成立した意義であり、そこに多くの国民が期待していた。

 しかし国民の期待は見事なまでに裏切られている。そもそも強いリーダーシップとは、ビジョンに裏打ちされていなければ存在しようがない。1990年にバブルがはじけてデフレという業病(ごうびょう:前世の悪業の報いによって起こるとされる、なおりにくい病気)に悩まされ続けている日本を、どうやって救うのか、どのような社会であるべきなのか、それがいま必要とされるビジョンである。

菅首相ができること

 小泉元首相はその点でははっきりしていた。「改革なくして成長なし」は、国民には明白なメッセージとして伝わった。自民党のしがらみ、既得権益のしがらみ、そこから脱却すること、すなわち自由化が経済を刺激するということである(今ではもっぱら小泉改革の負の部分、格差の拡大ばかりに注目が集まっているが、経済活動における資源配分を市場に任せるのが最も効率的であるというのはあまり議論の余地がないと思う)。

 小泉改革を継承するとした安倍、福田、麻生といった歴代首相が失敗したのは、この既得権益からの巻き返しをはねつけられなかった(意識してかどうか、自分自身も「はねつけたくなかった」)ところに原因がある。要するに変化を求めていた国民から見れば、この3人の首相は変化を阻害するリーダーに見えたのだと思う。

 もし菅首相がリーダーシップのある指導者として尊敬されたいのであれば、できることが少なくとも1つある。それはGDP(国内総生産)の2倍に迫ろうとしている日本の公的借金を返済する道筋を見つけることだ。そして借金を減らすには、支出を抑えることと、収入を増やすこと、つまりは増税をセットで行うしかない。

 菅首相のリーダーシップで最も欠けているのは、せっかく参院選で消費税増税を言い出したのに、選挙で大敗するとこの論議を封印してしまったことである。日本という国を救うには消費税の増税が絶対に必要であると信じるならば、国民を説得していくことこそリーダーのやるべきことであったはずだ。

 来年度税制大綱でも、個人増税4900億円、企業減税5800億円、差し引き900億円の減税などというのは、あまりにも姑息な数字合わせで、日本の状況を変えていくインパクトも何もない。とにかく来年の統一地方選挙で負けたくないという気持ちばかりが先行したつじつま合わせに見えてしまう。

 支出も同じことである。来年度の予算は、要するに今年度とほぼ同じ規模ということだ。民主党はこれまで、自民党時代につくられた予算を継承しなければならなかったことを言い訳にしてきたが、来年度はまったく自分たちの予算。それにもかかわらず、マニフェストで約束してきた財源を見つけ出すこともできず、子供手当も中途半端になり、ガソリンの暫定税率廃止などは雲散霧消している。

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