人は日々変わり続ける「トランスフォーメーション」展(2/3 ページ)

» 2010年12月16日 07時58分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 高木正勝氏の新作映像作品「Ymene」。観客は4原色で世界を見る鳥の姿になり、世界のいろんな場所を飛び回り、その姿がメタモルフォーズして、海に還りまた空へと飛び立つ。その姿はリンカネーションを思わせる。映像を見ているといつの間にか自分の姿はどんどん記憶を遡り、母の羊水の中へと還っていき、さらに前へ前世なんかよりもっともっと前の人類や大地に刻まれた歴史がフラッシュバックする。

エキサイトイズム 高木正勝「イメネ」2010

 高木正勝氏は、本作品についてこう語っている。

 「この展覧会の話をいただいたときに、キュレーターの長谷川祐子さんには『鳥になってきなさい』といわれ、中沢新一さんには『幽体離脱してきなさい』といわれました(笑)。今回の作品では鳥の目線だったり、子どもの目線だったり『変容する側の目線』を意識して映像を作っています。音は、いろいろ作ったんですが、今回も子守歌や赤ちゃんの声しかハマらなかった。それは、人が男や女、自然と人間という境界の概念を持つより前の無垢な音だからなのかなと。自分の作品は、まったく違う生き物に変身するというよりは自分自身に還っていく、そういう部分での変身を表現しているのだと思います」

 また、及川潤耶氏によるサウンドインスタレーションも非常に面白かった。彼は、子どもや動物、鳥、自身のリップノイズなどさまざまな声をサンプリングし、その構成を再度組み替えて変容させ、空間にちりばめる。及川氏は1983年生まれ、現在東京藝大大学院にて音響芸術を学びながら作品を発表する若き音響作家である。今後の活躍が非常に楽しみだ。12月18日(土)には、ホーメイ歌手/アーティストの山川冬樹氏とのサウンドパフォーマンスが予定されている。

 写真家の石川直樹氏は、エベレスト登頂にアタックしたときの自分自身の体の変容について語る映像作品と、北極・南極で撮影したプリントを展示している。肉体的にも精神的にも極限状態に追い込まれたとき、人は何を思うのか。石川氏の体験に基づいた言葉と現場の映像は、淡々とリアルに当時の状況を物語る。標高7000メートルを越えたときの心境についての言葉を紹介しよう。

エキサイトイズム 左:石川直樹「Dogsled/Ilulissat #2」2006 [北極] 右:石川直樹「Dogsled/Ilulissat #4」2006 [北極]

 「自分の意識が身体と分離するような感覚はありませんが、頂上付近では風の残像が見えたり視界に黒い靄がかかったりすることはあります。その症状は酸素ボンベを使うと消えるのですが、何らかの内的な変化は確かにあると思います」

 本展では、アジア作家の台頭が目立つ。ジャガンナート・パンダ氏もその1人だ。インド在住のパンダ氏は、現代の都市に生きながらも伝統を大切に思い、過去と現在の都市の姿が融合する姿を描く。

エキサイトイズム ジャガンナート・パンダ「失われた場所」2009 Courtesy: NATURE MORTE, New Delhi

 バールティ・ケール氏もインドの作家である。この作品では都会的な女性がショッピングバッグを抱えて歩く姿が彫刻になっているが、その顔は何者かに憑かれたような表情を浮かべており、欲にまみれた妖怪のようにも見える。そのほか、彼女はビンディを用いた壮大な絵画作品や女性の体の一部が変容する写真シリーズなどを展示している。

エキサイトイズム バールティ・ケール「アリオンの妹」2006 Collection of Titze Collection

 そのほか、パキスタンのシャジア・シカンダー氏、カンヌ映画祭でパルムドールを獲得した映像作家アピチャッポン・ウィーラセタクン氏などがアジア系作家である。ヨーロッパ系の作家とアジア系の作家における「変身─変容」のとらえ方の違いという点で作品を見てみるのも面白いだろう。日本やアジア圏では、人間と動物の距離が近く、日常感覚に近いところで「変身─変容」をとらえている、と感じられた。

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