人は日々変わり続ける「トランスフォーメーション」展(1/3 ページ)

» 2010年12月16日 07時58分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

エキサイトイズムとは?

「高い美意識と審美眼を持ち、本物を知った30代男性」に向けたライフスタイルのクオリティアップを提案する、インターネットメディアです。アート、デザイン、インテリアといった知的男性の好奇心、美意識に訴えるテーマを中心に情報発信しています。2002年11月スタート。

※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 東京・木場の東京都現代美術館で開催されている「東京アートミーティング トランスフォーメーション」展が面白い。何が面白いかというと、もちろん作品1つひとつも興味深いのだが、根底に流れるテーマ「変身─変容」が底知れぬ魅力を放っているからだ。

エキサイトイズム マシュー・バーニー 展示風景 2010 Collection of the Artist, Courtesy: Gladstone Gallery, New York

 テレビや漫画のヒーロー、映画やアニメのお姫さまに「変身」したいと思う願望は誰もが一度は持ったことがあるだろうし、念入りにパウダーをはたき、まつげをごっそり増量する女性たち(だけではない)や、戦闘服であるスーツに身を包むサラリーマンだって毎日変身しているといえる。年齢とともに体や心も変わっていくし、ちょっと食べ過ぎたら太る。人びとは、変身と変容を繰り返して日々生活しているのだ。

 今回は、東京都現代美術館のチーフ・キュレーター長谷川祐子氏と人類学者の中沢新一氏が共同で展覧会を企画した。アートと人類学という多層的なアプローチから、「トランスフォーメーション」という主題で人間と動物との関係を探る。ヨーロッパ、アジア、アメリカなど15カ国から集結した21組のアーティストたちは、どんな「変身─変容」を見せてくれるのだろうか。いくつか抜粋して紹介したい。

エキサイトイズム マシュー・バーニー「クレマスター3:ファイブ・ポインツ・オブ・フェローシップ」2002 Collection of the Artist, Courtesy: Gladstone Gallery, New York

 今回のメインビジュアルにもなっているマシュー・バーニーの作品だ。レディー・ガガに影響を与えたとかビョークのパートナーだとか周辺情報ばかりが流布しているが、米国のコンテンポラリーアートを代表するアーティストの1人で、2005年には金沢の21世紀美術館で大規模な個展も行われた作家である。学生時代に医学、美術、体育を修めたマシュー・バーニーは、一貫して「身体の変容」をテーマとしている。

 展示されているのは、本邦初公開の「クレマスター3」。これは2002年に制作された「クレマスター」シリーズを締めくくる作品で、ニューヨークのクライスラービルとグッゲンハイム美術館を舞台に、ケルトの巨人神話、フリーメイソン、華やかなラインダンス、ロックとさまざまな要素が複雑に絡み合う182分に及ぶ壮大なストーリー。映像、彫刻、写真という複数のメディアでマシュー・バーニーの最高に痛々しくも美しい世界が堪能できる。

エキサイトイズム

 一瞬ドキッとしてしまう感覚を与える彫刻は、パトリシア・ピッチニーニの作品「新生児」。ピッチニーニがテーマにしているのは、「人工物と生物、人間と動物の境界」である。シリコンと人毛を使ったハイパーリアルな彫刻は、ほのかな体温までこちらに伝わってくるかのよう。これまで見たことのない姿かたちの彫刻は、想像上のものなのか、遺伝子操作によるフリークなのか。寝息まで聞こえてきそうな安らかな寝顔の新生児は、わたしたちに生命倫理や差別問題を無言で問いかける。

エキサイトイズム パトリシア・ピッチニーニ「新生児」2010 Collection of the Artist Courtesy: the Artist, Roslyn Oxley 9Gallery, Sydney, Tolarno Galleries, Melbourne, Haunch of Venison, New York, and FAMA Gallery, Verona
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