日本企業がグローバル超競争で勝ち抜くために必要なこと――A.T.カーニー梅澤高明日本代表(8/9 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[GLOBIS.JP]

日本企業はなぜ飛躍できなかったのか

梅澤氏(左)、吉田氏(右)
吉田(素文・グロービス経営大学院副研究科長):本日はどうもありがとうございました。大変刺激的なお話を聞かせていただきました。

 まず率直に感じるのは、AB InBevやTata Consultancy Servicesの事例にもありましたように、もともとドメスティックだった事業体が短期間で急激にグローバル企業となるこのスピード感やスケール感です。梅澤さんは、企業が一気に飛躍していくためには、どういった条件が必要だとお考えですか。

梅澤 会社または経営者の意識。これが一番でしょうね。数年前、中国へ行ったときに感じたことがあるのですが、中国では例えば創業数年で従業員100人、そして売上高も100億円みたいな会社の社長でも平気で「10年後には世界一だ!」と言うんです。一方、我々が現在お手伝いしている日本企業には売上高1兆円超のクライアントもずいぶんいます。でも、「実は世界一になりたいんだけど、どうしたら良いか相談に乗ってくれない?」と、ストレートに言われたことは一度もありません。この違いは大きいでしょうね。

吉田 なぜ、日本企業では経営者がそのような夢や目標を立てられなくなっているのでしょうか。

梅澤 日本がそれだけ成熟して、幸せな国になってしまったということなんでしょうか。例えば、本田宗一郎さんは、今お話しした中国人経営者と何も変わらなかったと思います。会社が倒産しそうだというときに「世界のレースに出る」と言って大はしゃぎしていたんですよね。「世界で一番になるんだ」と。そういう経営者が今の中国やインド、あるいはブラジルにはいます。でも、日本にはいない。

吉田 そういう意味では、やはり成熟して固まってしまった我々のマインド自体が、超えていかなければいけないハードルの1つなのかなとも思います。今日はいくつかの事例とともに、「絞り込んだ上で標準化する」ですとか、「あまり複雑にしない」といったお話をうかがいました。この標準化や単純化の徹底というのは、口で言うのは簡単でも実際にはすごく難しい面もあるのかなと感じます。例えば、AB InBevのお話にありましたオペレーション統一ですが、色々な人が色々なことを言う環境ですから、さまざまな障壁があるわけですよね。そこを超える、やりきるにはどういった要素が必要になるのでしょうか。

梅澤 日本企業が苦手としていることの1つに、ノウハウの形式知化があると思います。日本人同士だと暗黙知のままである程度共有できてしまうから、国内のオペレーションは滞りなく進んでいたというケースが少なくない。形式知化を頑張ってきたのはアルバイトが入れ替わるような店舗オペレーションを持つ外食産業やコンビニです。こういうところはやむなくやってきた。でも正社員に依存出来る会社はやらなくても済んでしまいます。

吉田 日本企業は擦り合わせによって高付加価値を生むという戦い方をしてきた。その戦略と単純化を徹底する作業は、本来矛盾しないベクトルです。

梅澤 そうですね。矛盾しない。

吉田 なぜ日本企業はどちらか一方になってしまうのでしょうか。

梅澤 ある意味、怠慢ではないでしょうか。強い企業は両方出来ます。日本企業だけが形式知化をさぼってきたのだとすればね。ただトヨタ自動車を例に見れば、世界で展開するために形式知化を進めていったわけです。トヨタにできるのだから、少なくとも日本人にできないということではないと思います。

吉田 さらに踏み込んでいきたいのですが、グローバル超競争において日本企業はいくつかの方向性を示す必要があるというお話をうかがいました。それは例えばポジション取りであったり、経営自体のグローバル化であったり……、いくつかオプションがあったのだと思います。これまでの日本企業はなぜそれができないんでしょうか。

梅澤 やらない言いわけを並べているほうがラクですからね。ただ、平社員が言っているのならまだ分かりますが、ミドル以上がそういった言いわけを口にして済ませているような会社は、やはり未来がない。みなさんの会社がもしそのような状態であれば、自分の人生を大切にするなら辞めてしまうという選択肢も有りかなと思います(会場笑)。

吉田 残念ながら、そういう企業や経営者がまだ生きていけてしまうような状況なのかもしれませんね。しかし今後はほとんどの企業で、海外に進出するか否かも関係なく、グローバリゼーションの影響受けるようになっていく。開国し、経営自体を変えていかなければいけない……。

梅澤 欧州の企業は少なくともEUの統合を経て、相当グローバルマインドになりました。10年前です。さらに言えばその前から植民地経営として世界に向けた仕事をしてきたわけです。ただ、今は新興国の経営者が、最もグローバルマインドが強く、かつ成長意欲も強い。だからこそ、欧州の老舗企業で経営陣がほとんどブラジル人になってしまうようなケースが起こるのだと思います。

 もっとも、それは会社のために良い選択をしているわけです。「ベストなタレントはどこにいるのか」と考え、たまたまブラジルにいたから連れてきた。これがグローバル競争のリアリティーだとしたら、日本企業はどうやってキャッチアップしていくか。日本的経営手法の良さはあるかもしれませんが、開国をしないでキャッチアップするオプションはあり得ないと思います。

吉田 そこに対応していく上で、特に今日いらっしゃっている方々の多くは同じ問いを持つと思います。グローバル超競争の時代におけるリーダー像です。ミドル、またトップのリーダーが持たなければいけない視点とはどういったものになるのでしょうか。

梅澤 体も心も強靭であることはベースとして本当に欠かせない要素だと思います。その上で視野とか視座、あるいは世界観や歴史観が必要になる。それがないビジネスマンは世界に出ていくと会話ができなくなります。また、日本人のチームではなく世界から集まってきた混成チームを引っ張らなければいけないわけですから、分かりやすく自分のビジョンを語ることができる力も欠かせないと思います。会社全体のビジョンでなくていいんです。チームで自分のビジョンを語り、異文化を背景にした人たちにも納得して付いてきてもらえるようなリーダーシップは最も重要な要素の1つです。

吉田 梅澤さんご自身、お正月は熊野のほうに行かれたりしていますよね。日本に帰ってこられたというキャリアもそうですが、非常にグローバルな考えをお持ちであると同時に、恐らく「日本」という視点も強くお持ちになっていると感じます。梅澤さんなりの日本社会や日本企業、あるいは日本人に対する思い入れといったものがあればおうかがいしたいと思います。

梅澤 思い入れが強いからこそ今も日本で仕事をしていますし、お客さんも日本企業なわけです。しかもその想いが高じたからこそ、経産省の成長戦略策定の支援もしました。中でも文化産業の分野は、はっきり言って商売としては成立しないんです。コンテンツやファッションの業界にはあまり大きな企業もありませんから、大きなフィーを払ってくださる会社なんて本当に限られてくる。それでもやはり日本として世界に打って出るチャンスがあるのならやりたいと思うのは……、こういう気持ちは……、何なんでしょうね(笑)。

吉田 何なんでしょうね(笑)。そんな根っこの想いがあるからこそ、今日のようにはっきりしたお話やリアルな現状認識もできるのかなと思います。

梅澤 ちなみに私は自分のことを国粋主義者だと思っているんです。あるテレビ番組で「日本は開国すべきだ。外国から人材をたくさん受け入れるべきだ」と言ったら、後日、「2ちゃんねる」辺りで炎上していたそうです(会場笑)。私が最悪の市場原理主義者に見えたようで……、不思議だなあと思います。

吉田 リーマンショックの後、「強いもの作り」に閉じこもっていくような考え方もあります。日本の美点を見つめ直すこと自体は良いことなのですが、まずは世界と同じ競争ルールに上がるために、「ここまでやらなければ話にならない」というのが、本日のお話における核心の1つだったと感じました。大変ありがとうございます。ではここからは会場から質問を受けたいと思います。

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