日本企業がグローバル超競争で勝ち抜くために必要なこと――A.T.カーニー梅澤高明日本代表(6/9 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[GLOBIS.JP]

AB InBevが象徴するグローバル超競争のリアリティ

梅澤 ここで改めて個別企業の戦略に触れていきましょう。先ほどご紹介したAB InBevについて少し駆け足でお話しした上で、同社CEOであるCarlos Britoのインタビュービデオをご覧になっていただこうと思います。繰り返しになりますが、InBevは2004年当時、ベルギーのInterbrewが、ブラジルでシェア7割ぐらいを押さえていたAmBevを買収して誕生しました。AmBevは、2000年にブラジル国内で1位と2位のビール会社が合併した企業です。言ってみればアサヒとキリンが合併したようなものですからブラジルでは圧倒的にナンバー1。ブラジル以外でも、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、パラグアイでナンバー1でした。Inbevは続いて、2008年に「Budweiser」を擁するAnheuser Buschを買収し、AB Inbevになったわけです。

 買収に買収を重ねていったわけですから当然ながら売上高はうなぎ登りですが、ここでさらに重要なのが営業利益率です。もともと10%強だったものが25%超まで上がっていきました。ではInterbrewを主語としたとき、彼らはどういったタイミングで世界展開をしていったか。2004年に合体したInterbrewとAmBevは、実に違ったキャラクターの2社でした。結果を見ると、この2社が本当にうまくハイブリッド化して世界最強のビール会社が誕生したように見えます。

 まずInterbrewは欧州でプレミアムブランドのポートフォリオを持っており、一部新興国のローカルブランドも買収する。新興国市場が伸びてきたら、そこで買収したブランドの持つ流通網に、欧州発のプレミアムブランドを重ねていくという戦略を採っていました。

 一方のAmBevは何が強みだったかというと、徹底した効率経営。業界ナンバー1の効率であると当時から評価をされていました。親会社がInterbrewでAmBevを買収したという形ですが、そんな2社が合体することでAmBevが持っていた効率経営を Interbrewのオペレーションにも全面展開していったのが2004年以降です。グローバルでの標準化ということになりますね。

 さらに2007年以降は標準化だけではなく、世界中で百数十に広がった生産拠点の統廃合をグローバル最適化という形で行っています。主に欧州の工場を閉めて新興国の工場を残すという方向でした。

 それからもう1つ、日本のビール会社であれば、準コア事業になっているような清涼飲料事業やパブ事業を、ほぼすべて売却しました。もうかっているにも関わらずです。そしてその売却益をビール事業におけるさらなる投資に向けていったという集中ぶりです。

 AmBevのオペレーションエクセレンスということで、象徴的な施策も2つほどご紹介していきましょう。1つは、毎年のゼロベース予算をかなり真面目にやっているという点。どこの企業もそうですが、多くの品目について基本的には対前年で何%減らそうとか、そういったやり方ですよね。でも AmBevは毎年ゼロベースです。もう1つは、グローバルで工場オペレーションを標準化すること。こちらについては合併した翌2005年、世界の55工場にわたってオペレーション標準化の同時展開を実現していきました。そんなすさまじいスピード感で経営しているということです。当然社員だけではできませんから、我々のような経営コンサルも大量に雇い、1つのメソドロジーのもと世界中で標準化を徹底していく。そんな戦略でグローバル効率化を推進していきました。

 それを経営ビジョンレベルで表現すると「Shift from biggest to best」という言葉になります。これは2005年の経営ビジョンですね。「我々は合併によって最大のビール会社になったが、最大なだけではなく最高のビール会社になるのだ」と。ここでいう最高というのは最高効率という意味です。それぞれ異なる強みを持った2社が合併して、ブランドや地域市場を買収するという意味でさまざまなM&Aを繰り出し、その結果として世界シェアが大きくなる。しかもオペレーションの効率化を行うので利益率も上がり、時価総額も上昇するから投資家から見ても評判が良い。こんな好循環サイクルのなかで、すさまじい成長を約6年間続けてきた会社なんです。

 ではこのAB InBev、どんな経営陣が引っ張っているのでしょうか。現経営陣はブラジル人中心です。2004年の買収後、取締役会は2005年に当時のベルギー人CEOのクビを飛ばしました。そして買収先のAmBevで効率経営を引っ張っていたCarlos Britoという当時40代前半のCEOをベルギー本社まで連れてきた。そこでBritoは自分の右腕たちをベルギーに多数連れてきて、このベルギー+南米の世界帝国をマネジメントするチームが出来た。このあとAnheuser Buschも買収していますが、基本は同じチームでやっています。

 そのCarlos Britoですが、CNBC TVで2009年秋に行われたインタビュー映像がありますので、こちらを一部ご紹介致します。

 →インタビュー映像(外部リンク)

 みなさん何を感じられましたか? これがグローバル競争で世界をリードしている会社のCEOです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.