日本企業がグローバル超競争で勝ち抜くために必要なこと――A.T.カーニー梅澤高明日本代表(2/9 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[GLOBIS.JP]

日本は世界唯一の新興衰退国?

梅澤 まずはマクロな視点からです。ここではGoldman Sachsが比較的最近発表した指標で日本の地位を見ていきましょう。1990年、日本は名目GDPで世界の14%を占めていましたが、2007年には8%まで低下しています。そして2030年には4%、2050年にはさらにその半分となる2%までシェアを落としていくというのがGoldman Sachsの見立てです。

 ちなみに2030年の4%という数字は1ドル100円ベースで換算するとちょうど510兆円になります。ここ15年の名目GDPは約500兆円前後ですから、Goldman Sachsは2030年まで日本経済が名目ベースでほとんど成長しない、あるいは一度成長するがまた縮小するのではないかと予測をしているわけです。それが真実かどうかはこれから20年間にわたる私たちの頑張り次第ということになると思いますが、とにかく外資系の金融機関はこう見立てていますよということです。

 また、特に欧州のメディアは、日本を表現するにあたって「新興衰退国(Newly Declining Country:NDC)」なる言葉を使うようになりました。私はこの言葉を初めて目にしたとき、あることに気が付いて無性に腹が立った記憶があります。それは“Newly Declining Country”という表現。単数形になっているんですよね。つまり日本1国だけということです。日本は海外からそんな風に揶揄されるところまできてしまった。これまで「失われた10年」と言っていたものが15年になり20年になり……、外から見るとそれだけ無策であったように見られているということだと思います。

 もちろんこれは量の話です。例えば、中国があれだけの人口で、かつあれだけのスピードで成長していれば、いずれ量で抜かれるのは仕方がないだろうというとらえかたはあります。実際のところ、2010年には名目GDPで抜かれるわけですから。ただ、問題は量の話だけでない。「質はいまだに世界一流だと、本当に胸を張って言えるのですか?」という問いかけが生まれているのだと思っています。

 世界経済フォーラムが毎年発表している世界競争力指数を、バブルのピークであった1990年と足元の2009年で比較してみましょう。これを見てみると、シンガポールのような新興国がランキング外から入ってきている一方、先進国はずるずると順位を落としています。その分析自体はよくあることですが、米国の競争力は後退していませんよね。日本は残念ながら8位です。

 ここではあわせて、同ランキングの中で日本のどの分野が世界からいまだ評価されており、どこがだめだと思われているのかも詳しく見てみましょう。まずビジネスの先進度(business sophistication)では、まだ1位です。自信をなくしている最近のビジネスマンからすると「なぜこんなに高いのか?」と、少々違和感を持つと思います。しかし、日本には世界一厳しい消費者がいるわけですし、その要求水準にしっかり応えて細かい差異化をしていくような戦い方においては、日本企業はいまだに強いということです。その一面を見ればものすごく洗練されたビジネスができあがっている。これはある意味、BtoBの領域でも同じことが言えるでしょう。

 イノベーションについても同様に高い評価を受けており、4位です。新しい技術の種も依然としてたくさん出てきているということですね。問題なのはその技術を活用するフェーズです。イノベーションは4位なのに技術活用は25位。これは何を意味しているか。せっかく良い技術があるのに、それで稼ぐことができていない、あるいは産業として確立させることができていないということです。なかなか世界は客観的に見ているなと思いますね。あと、個人的には高等教育および職業教育が23位、金融市場の成熟度が40位、政府が28位というのも大変気になるところです。

 いずれにせよ我々が世界において一流国であり続けようとしたら、質の面でこのような低い評価を受けているという事実を放置しておくべきではありません。まずはこれを大きな問題提起にさせていただきたいと思います。ここまでがマクロです。次はミクロの視点からいくつかのデータを見ていきましょう。

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