OJTが本当に必要なのは、新入社員ではなく管理職(1/2 ページ)

» 2010年12月14日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 OJT(On-the-Job Training)は、座学やケーススタディやロールプレイのように、現場を離れて行う「研修」だけではしっかり身につくとは思えないものを学ぶときに効果的な手法です。ですから、研修や講座で覚えてきたら仕事場に戻ってすぐに使えるようなもの、目標とする到達地点やそこに至るまでの計画を立てたりしなくとも、短期間で習得・実行・達成できるようなものは、必ずしもOJTという手法を使う必要はありません。

 逆に、現場で上司など周囲と合意した目標と計画に基づいて、学びと実行を繰り返し、チェック・修正し、その習得のレベル・状況を確認していかないとしっかりと身につかないようなものは、正にOJTに適したスキル・ノウハウであると言えます。

 OJTというと、新入社員教育を瞬間的に思いつくほど新人とセットのようになっていますが、決して新入社員教育のためにある手法ではありません。考えてみれば、新入社員が学ぶべきことの中には、覚えたらすぐにできるようなものが多くあります。研修で何回かやってみればそれなりに格好がつくこと、知っているか知らないかだけのこと、マニュアルを見ればできるようなことが、非常に多いわけです。

 もちろん、商談時の言葉遣いや振る舞いや進め方であるとか、タイムリーな報連相や会議の設定・招集・進行であるとか、自身の目標管理や心身の管理であるとか、一人前になるために継続的にチェックや指導が必要なものもあります。しかし、学ぶべきことでそんなに簡単には身に付かないものはとても多く、実はOJTを通して学ばないといけないことが本当に多いのは新入社員ではありません。

 管理職が学ぶべきことには、そのようなことが非常に多い。目標設定と評価の方法、業務の進ちょく管理・予算管理、部下の話を聞く、組織に向かって話す、会議を進め・まとめるといったコミュニケーションの技術、情報共有や相互理解を進めるための仕組み作り、チームを機能させるためのさまざまな仕掛け作り、メンバー個別の心身の状態把握とケア、育成・支援・動機付け。このようなスキル・ノウハウは状況次第で応用が求められるし、訓練も必要で、研修や講座で覚えたら仕事場ですぐにできるものではありません。それこそ目指すところを定めて計画的に取り組まなければ身に付きません。

 ところが現実は、昇格した際に社内規程や各種の制度・ルールや労働法などの知識をかいつまんで教えて、せいぜい管理者の心得などを経営者が述べて終わりで後は何もしないとか、思いついたようにマネジメントに関する研修を単発で実施するだけといった会社がとても多い。

 「階層が上がっていくほど、必要な(不足している)知識量は減っていく」「期待される成果を出すのに必要な(不足している)スキルやノウハウは、若いほど大きい」のであれば、それでも構わないでしょうが、実際には階層が上がるほどに学ぶべきことは増えていきます。管理職ともなればそんなことは理解しており、学ぶべきことを見出して自ら学びながら、その経験をしっかり蓄積・体系化していくことができているというのであれば、何の問題もありませんが、そうはなっていないことは衆目が認めるところだと思います。であれば、管理職の育成は相当に寒い状況になっていると言わざるをえません。

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