2011年、世界経済は厳しい局面を迎えるかもしれない藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年12月13日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 2010年の世界経済は全体として見れば、当初に言われていたよりもいい結果を残したようだ。例えばOECD(経済開発協力機構)は、この11月に世界の総生産は5%近く伸びるという予測を発表している。これは1年前に考えられていたよりもはるかに高い数字だ。日本も失速しつつあるとはいえ、日本総研の最新予測によれば、今年度は2.6%成長とされている。

 しかし世界経済が全体として回復軌道に乗ったとはとても言えない。米国は依然としてカンフル注射(財政による景気刺激と金融緩和)を続けている。ブッシュ前大統領による減税も、所得制限をしようというオバマ大統領の方針が中間選挙の敗北で吹っ飛んでしまった。そのため減税が継続され、結果的に財政赤字が拡大している。下手をすれば米国債に対する信頼が急低下して金利が上昇するという局面もあるかもしれない。

新たな摩擦を生む懸念

 英エコノミスト誌最新号(12月11日号)では、世界経済が、米国、ユーロ圏、そして新興経済圏の3つがそれぞれ別の方向に動き、それがまた新たな摩擦を生むという懸念を特集している。

 新興国経済で最も懸念されるのはインフレである。とりわけ米国や日本などの金融超緩和政策が続くと、そこで余ったカネが新興国に流れ込む。資金が流入すると為替が高くなって輸出産業に打撃を与えることから、新興国も金融引き締めになかなか踏み切れない。金利が高くなればさらに自国通貨の相場を押し上げる要因になるからだ。

 中国などでは為替管理ならぬ商品の価格管理(商品の値上げの理由を当局にあらかじめ説明しなければならない、など)を強めているようだが、インフレをそれで抑え込めるわけではない。そして新興国が金融を引き締めすぎれば景気が失速する恐れもあるし、引き締めが十分でなければインフレが激化する恐れもある。エコノミスト誌は「いずれにせよ、新興国のマクロ政策ショックが生じる可能性が高まっている」と警告している。

 ユーロ圏ではギリシャやアイルランドの財政危機が深刻だ。さらにポルトガルやスペイン、イタリアなどの国債が暴落したりすれば、ユーロ圏そのものが瓦解しかねない。ギリシャやアイルランドは支援できても、スペイン、イタリアとなればケタ外れの金額が必要になる。そこまで危機が深化しなくても、ユーロ圏で債務危機に陥った国がどのように立ち直るのか。エコノミスト誌は「通常なら通貨の切り下げによって輸出の価格競争力を取り戻すことができるが、ユーロの中にいればそれは事実上不可能であり、経済再建に時間がかかる」と指摘している。

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