こんな経営者が、若い人を使い捨てにしている吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年12月10日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 私はこういう経営者を批判するつもりはない。この20年ほど、ベンチャー企業の経営者を取材してきて思うことなのだが、得てしてこういったタイプが多いのだ。大体、4〜5人に1人はこの類である。矛盾に満ちていながらそれを絶えず正当化する、ふてぶてしい“タマ”でないと、厳しい世の中で会社を存続させることは無理なのかもしれない。

成功の体験が失敗を生む

(写真と本文は関係ありません)

 彼らが持つこの「負のエネルギー」は、大切なものだと思う。例えば、ベストセラーを次々と表すことで知られる、コンサルタントの神田晶典氏は著書『非常識な成功法則』(フォレスト出版)でこう書いている。

 「お金のないところから、お金を得るまでは『悪の感情』は非常にプラスになる。学歴がないことを見返してやる、貧乏だったことを見返してやる、(中略)という欲求は、巨大なエネルギーになる。グランドゼロから離陸するのは、エネルギーが必要なんだろう。」(237ページから抜粋)

 神田氏は、さらにこう述べる。「ところが、成功に向かって走るときに、すでに失敗の萌芽が生まれつつあるのである」(237ページより抜粋)。前述のベンチャー企業の経営者は、売上10億円まではいまのペースで行くのかもしれない。しかし彼の傲慢な考え方では、そこで息詰まるのではないだろうか。

 10億円の壁の前に、ベンチャー企業の多くの経営者は精神的につぶれていく。そして上場を断念し、名もなき中小企業のままで生涯をひっそりと終えていく。これが日本に非常に多い、中小企業の一断面である。

 経営者たちが息詰まるのは、売上8〜9億円で社員数が大体30〜60人ほどになったころだ。ここまでは経営者や一部の役員、稼ぎまくるマネージャーらの力でたどり着く。しかし、8〜9億円になると破たんする。この規模になると、経営者や役員らの目が行き届かない。各々がバラバラの行動をとり、がむしゃらに進んでいくやり方がもう通用しない。

 すると、何かが起きる。例えば、有力な社員がデキル部下を引きつれて退職をしたり、大スポンサーがいなくなったりする。社員の定着率はすこぶる悪い。慢性的に人の出入りがあり、人材育成はできていない。つまり、株式会社としての体制になっておらず、個人事業主の集まりでしかない。

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