コラム
» 2010年12月09日 08時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:「芸能人を殴った男を確保」……なぜ“誤報”が流れたのか (1/3)

「芸能人に暴行を加えた人物の身柄を警視庁が確保した」という内容の記事が、ネット上に流れた。警視庁が身柄を確保した事実はないのに、なぜこうした記事が“報道”されたのか。背景にはメディアが抱える組織上の問題が潜んでいるようだ。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 “予定稿”――。

 一般読者には馴染みの薄い言葉かもしれない。読んで字のごとし、記者会見や統計物の発表前に予め数種類の原稿を準備しておくことだ。現役記者時代、筆者も膨大な数の予定稿を書いた経験を持つ。最近、この予定稿が人為的なミスで外部に流出、これが世間に広く伝わるという珍事が発生した。今回の時事日想は、予定稿が持つ危うい一面に切り込む。

漏れた予定稿

yd_kabu.jpg (写真と本文は関係ありません)

 「Googleで『予定稿、◯◯(個人名)』と検索すると、表に出てはいけない記事が読める……」(某紙記者)。

 過日TwitterのTLを眺めていると、知り合いの記者がこんな投稿をしていた。筆者がその通りに検索すると、繁華街で暴行を受けた芸能人、そして警察が行方を追っていた加害者の実名が某スポーツ紙のロゴとともにモニターに現れた。

 記事の中身は、「芸能人に暴行を加えた人物の身柄を警視庁が確保した」という内容だった。もちろん、Twitterでこのつぶやきが流れた時点で警視庁が身柄を確保した事実はない。記事管理システム上のトラブル、あるいは単純な記者のミスかもしれないが、メディアに勤務する記者なら誰もが書いている予定稿が、一般読者の目にさらされてしまったのだ。

 筆者は予定稿を否定するつもりはさらさらない。冒頭で触れたように、会見や統計発表だけでなく、裁判、国会行事、市況原稿などで予定稿は必需品だからだ。少ない記者で広い分野をカバーする必要がある中で、先々の予定を把握し、準備をしなければとても取材活動などこなせないからだ。

 筆者が書いてきた予定稿は以下のようなものがある。例えば、株価が下げ基調にある際、読者の関心が高い日経平均株価の節目、大台を事前に調べ、日付と実数の部分を穴空きにしておく。「日経平均株価、○○年ぶりに万円の大台割れ」といった具合だ。外為市況も同様で、「円急伸、○○年ぶりに最高値更新」などだ。

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

マーケット解説

- PR -

ITmedia 総力特集